12月6日、京都文化博物館において、映画「暮れ逢い」の上映後、パトリス・ルコント監督と、映画評論家の滝本誠さんのトークショーが行われました。

ルコント監督:一番最初の作品「髪結いの亭主」では来日できませんでしたが、2作目以降は毎回来日しています。日本に来るのはいつも楽しみです。

次回作は撮り終わっています。12/31にフランスで公開です。「暮れ逢い」とは真逆の内容で、「1時間の休息」というタイトルです。レコードマニアの主人公が、せっかく買ったレア物のレコードを、聴く時間がなかなか取れないという話です。

滝本さん:映画の世界に入ったきっかけは何ですか?

ルコント監督:父親が映画好きで、よく映画館に連れて行かれました。映像で物語を表現することにあこがれましたが、田舎だったので、監督になるなんて夢のまた夢でした。
その後、住んでた町で短編映画フェスティバルが開かれて、夢が現実味を帯びてきました。

成長して、パリの映画学校に進みますが、そこで何も学ぶことはありませんでした。
映画館で映画を見たり、安い予算で短編映画を撮ることの方が多くを学べました。

最初に撮った長編デビュー作は喜劇でしたが、興業的に失敗でした。
その後、3年ぐらい仕事がなくて、暗い時期でした。
2本目は大ヒットして、今に至ります。





滝本さん:映画学校時代のエピソードを教えてください。

ルコント監督:クロード・シャブロル監督の「Docteur Popaul」という超駄作を観て、住所を調べて、監督に手紙を書きました。
「親愛なるムシュー あなたが百年後にこんな駄作を撮ることを知っていたら、リュミエール兄弟は映画を発明しなかったでしょう」って。ちゃんと自分の名前と住所も書きました。

数年経って、デビューをすると、事務所がシャブロル監督と同じでした。
マネージャーに紹介されて、シャブロル監督と対面したら、がっしり抱きしめられました。
「君にもらった手紙は額縁に入れて飾ってるよ。私も返事を書いたんだが、投函し忘れてね。『親愛なるムシュー あなたが百年後にこんな罵倒の手紙を書くと知ってたら、ウォーターマンは万年筆を発明しなかったでしょう』ってね」と言われました。

私はシャブロル監督がユーモアの分かる人だと思ったから、批判の手紙を出したのです。これがジャン=ピエール・メルヴィルだったら出しません。

メルヴィル監督は、映画学校に授業をしにきたことがありました。
帽子もサングラスもトレンチコートも脱がず、せっかく学生が準備してきた質問に対して「その質問はつまらないな。次どうぞ」と言ったのです。
その後、質問する者は出ず、授業は5分で終わりました。
それ以来、私は彼の全作品が嫌いです。



滝本さん:「ピアノ・レッスン」で有名なマイケル・ナイマンを作曲家として起用した経緯を聞かせてください。

最初、プロデューサーに彼を起用したいと伝えたときは、「イギリス人だし、難しい」と言われましたが、自分でロンドンに会いに行ったら、快諾してくれました。
何事も、やりたければ、無理だと思わずにやるべきだと思います。

マイケル・ナイマンを知ったきっかけは、ピーター・グリーナウェイの作品でした。
「数におぼれて」の曲を、「仕立屋の恋」で使っています。
ナイマンには「グリーナウェイより、曲が活きてる」と言われました。

彼はそのとき、グリーナウェイと喧嘩中で、グリーナウェイの次回作は、ベルギーの大したことない作曲家に変更になったのです。

滝本さん:監督のほとんどの作品で、レコードをかけるシーンがありますね。

ルコント監督:音楽なしの映画は作れません。アメリカ映画では始終、音楽が流れているが、なげやりな印象で好きじゃありません。針を落とす瞬間をクローズアップすることで、今から音楽を流すということを印象づけたいのです。

滝本さん:監督の作品「歓楽通り」の人間関係が好きです。

ルコント監督:主人公は娼館の雇われ人で、娼婦に恋してるが、自分のものにならないことを知っている。だから、彼女を幸せにできる男を探してくる。
無償の愛とも言えるし、代理恋愛とも言えます。
「暮れ逢い」の三角関係とも似ています。

滝本さん:「暮れ逢い」では、初対面のシーンで、女主人は階段から降りてきますが、身分差を表現しているのですか?

ルコント監督:そうです。映画はずっと、フレデリックの視点です。
ロットは階段から降りてくる。立場が上であることを利用しないのです。
でも、そういうことは、考えるより感じて欲しいです。

フレデリックの部屋に置かれた絵画についても、フレデリックは、ロットの愛情表現だと思っていますが、ロットには深い意味はありません。

フレデリックは、ロットに一目ぼれしますが、ロットはゆるやかに長い時間をかけて惹かれていきます。ホフマイスターの方が早く気づくくらいです。

滝本さん:「暮れ逢い」のジクソーパズルの絵柄に意味合いは?

ルコント監督:そういうことを一つ一つ説明すると、重たくなるので説明しません。軽やかに楽しんでほしいので。

滝本さん:じゃあ、軽い質問を。好きな色は何ですか?

ルコント監督:昔大嫌いだったオレンジ色が、数年前から好きになりました。
プラスチックのオレンジは今でもダサいと思ってますが、アジアによくあるサフラン色に似たオレンジは好きです。紅葉のオレンジ色も、卒倒するほど美しい。



<最後は、客席からのインタビューがありました>

Q.今までの作品で、一番気に入っているヒロインは誰ですか?

A.「橋の上の娘」でバネッサ・パラディが演じたアデルです。

Q.「暮れ逢い」で新たに挑戦したことは何ですか?

A.英語で、イギリスの俳優と仕事をすること。
 毎朝、Tシャツとジーンズという現代の服装で、1回稽古をすることです。
 その時代の衣装をつけなくても感情が伝わるなら、上手くいくということを学びました。

Q.時代背景やロケ地選びについて教えてください。

A.メキシコというのは原作通りです。第一次世界大戦で、
 帰って来られない場所というのが重要です。
 フランスでは理想的な場所がなくて、ベルギーで撮影しました。

Q.アラン・リックマンはどのように起用したのでしょうか?
 あと日本映画について何か一言お願いします。

A.キャスティング・ディレクターに探してもらいました。
 その後、ロンドンに会いに行って意気投合しました。
 彼は気難しいという噂がありましたが、とてもチャーミングでした。
 アメリカ映画に出るときだけ、嫌な奴になるのかもしれませんね(笑)

 フランスでも、日本映画の評価は年々高まっています。
 申し訳ないのですが、私は忙しくて、最近見ていません。

Q.人生で何が一番大事だと思われますか?

A.他者を尊重することです。世界がうまくいく呪文だと思っています。