12月6日、京都文化博物館で「黄金」の上映後、東京国際大学准教授・渋谷哲也さんによる解説が行われました。

トーマス・アルスラン監督は、日本では無名ですが、ドイツではマニアに人気です。

「黄金」は、日本では、東京で配給会社向けに1回上映したことがあるだけで、一般向けに上映するのは今回が初めてです。

300本の候補作の中から、京都ヒストリカ国際映画祭の上映作品に選んでくださって、嬉しく思います。

今、京都みなみ会館でも、アルスラン監督の旧作を上 映しています。
「イン・ザ・シャドウズ」「休暇」「晴れた日」の3本です。

西部劇とドイツには近い関係があります。

1960年代、ドイツは、児童文学作家・カールマイの小説を原作に、西部劇を作っていました。

イタリアで作られたマカロニ・ウェスタンのモデルとなっているのが、ドイツの西部劇です。

カールマイはアメリカに行ったことはなく、資料と想像で西部劇を書きました。
映画も、ユーゴスラビアやスペインで撮っています。

アメリカでロケするお金が無かったからです。

21世紀に作られた「黄金」は、本当に北米でロケをしています。
低予算で、少人数で撮影を行いました。

アルスラン監督は、トルコ系移民とドイツ人のハーフです。
ドイツで生まれ育ちました。
トルコ系移民2世の日常を描いた映画で有名になります。

同じ移民の監督として、ファティ・アキン監督も有名です。
「ソウル・キッチン」や、アルメニアの虐殺をテーマにした「The Cut」という映画を撮っています。

一方、アルスラン監督は、移民というテーマから離れていきます。

「黄金」では、黄金採掘に向かう、唯一の女性メンバーの内面を掘り下げません。
等身大の彼らの日々を映すのみです。

一般社会と同じような善悪もありません。
ヒロインは人を殺しますが、今までと同じように旅を続けます。

ベルリン映画祭にドイツ代表として出品されますが、プレス試写では最悪の反応でした。
西部劇らしくない、見せ場がないと馬鹿にされたそうです。

アルスラン監督は、ベルリン映画アカデミーでクリスティアン・ペッツォルトと同窓です。
彼らは、現実を淡々と撮る作風で「ベルリン派」と呼ばれました。

アルスラン監督の代表作「兄弟」は、移民2世の3兄弟が出てきます。
全員俳優ではありません。
場の空気を大事にし、ドラマチックな演出もしません。

アルスラン監督は、映画学校時代、91年にベルリンの壁の跡地を撮る「周縁で」という短編映画を作っています。
壁崩壊の1年後に何も無くなった跡地を、です。
ベルリンの壁崩壊によって変わった、街の様子を撮らないところが、監督らし いです。

アルスラン監督は、「彼方より」というドキュメンタリー映画を撮っています。
トルコを、西から東へ旅するというものです。
当時、EUが拡大し、トルコがEUに加わるかどうかという時期でした。

西は都会ですが、東は田舎で、イランとの国境で治安も悪いので、西から東へ行くというのは危険なルートでした。
映画の中では、政治的なことは表に出しません。
政府がアルメニアの文化を壊したということも、事実として風景を映すだけです。

<客席からの質疑応答コーナー>

Q.移動のシーンがリアルです。一方で、人間関係が作り物っぽいですね。一人一人メンバーが消えていくところなど。

A.「黄金」は実話ではないのですが、19世紀、実際にカナダのクロンダイクという街でゴールド・ラッシュはありました。ニューシネマで低予算だと、リアルな日常系の話になりがちですが、アルスラン監督はそれを超えたいと思っています。だから、ありがちな盛り上がりはないけれど、筋の通ったストーリーはあります。

Q.マカロニ・ウェスタンなど、昔の西部劇っぽいと感じました。パロディを意識されているんでしょうか?

A.人工的な照明は使わず、意図的な引用もしていません。ただ、スタッフに、ラオール・ウォルシュなど昔の西部劇を参考に見せたので、似ている部分もあると思います。

1970年代、ニュージャーマン・ シネマという流れがありました。
ナチ時代、映画がプロパガンダに使われた反動で、シナリオがない映画が流行ったのです。

アルスラン監督は、そういう映画とは違い、シナリオはあります。

Q.アルスラン監督は、豊富な予算で、娯楽大作を撮りたいとは思わないのですか?

A.本人は商売っ気がないのです。「晴れた日」が大コケし、5年くらい映画を撮れなかった時期も、焦っていませんでした。芸大の教授で、定収入があるからでしょう。

しかし、一作ごとに娯楽性が上がっていると思います。
最近、「新作のシナリオを作っている」とメールがきました。

Q.娯楽性がないのに、ベルリン映画祭のドイツ代表に選ばれたんですね? ドイツ国内での評価を教えてください。

A.一部のファンには大ウケしましたが、動員数は少なかったです。
人気のニーナ・ホスという女優さんが主役ですが、それでもヒットしない。
ドイツでも映画界は斜陽です。
業界では、ベルリン派に看板になって欲しいと思っているのですが、地味な映画が多いので、ヒットしづらいのです。