11月1日、京都文化博物館で「吸血セラピー」上映後、プロデューサーのアレクサンダー・グレアさんと、映画評論家のミルクマン斉藤さんによるトークショーが行われました。
通訳は、松原敬之さんです。

斉藤さん:グレアさんは、ノボトニー&ノボトニーという会社を運営してらっしゃいます。
この会社名になってる、共同経営者のノボトニーさんは、夫妻なんですよね。

グレアさん:そうです。最初は奥さんも一緒に経営していたのですが、今では別会社を立ち上げてます。
奥さんは、CM制作のノボトニーフィルムプロダクション。夫の方は、映画制作のノボトニー&ノボトニーです。

斉藤さん:この映画を撮ったデイヴィット・リューム監督は、CM製作を中心に活動してきた監督なんですよね。
監督の経歴など、詳しく教えてください。

グレアさん:監督の父親は有名な作家で、母親はポーランドのオペラ歌手です。監督も音楽教育を受けていて、ウィーン少年合唱団にいたことがあります。

この映画にも、両親の影響が感じられますね。
ポランスキーに代表されるような、ポーランドの、共産主義国家のコメディ要素。
作家の父親からは、対話の面白さなどの文学性。

映画の中でも、フロイト博士が夢錠剤を飲んでうわごとを言うシーンがありますが、あのうわごとは父の詩です。

斉藤さん:オーストリアの映画界の状況を教えてください。

グレアさん:昔は大帝国だったので、オーストリア病というのがあります。「昔は良かったのに」と過去形で嘆くんです。
第1次、第2次世界大戦を経て、小国になってしまいましたから。

1980年代、フランスやドイツでは、社会が映画に助成する動きが出てきました。
しかし、オーストリアは人口800万人しかいません。マーケットが小さく、映画にかけるお金がないんです。

斉藤さん:ヴィクトルとルシーの言葉は方言ですか?



グレアさん:いや。1階のおばあさんとフロイト博士が方言で、あとは標準語に近いですね。
私も今、方言で話してまして、通訳の方にご苦労をかけていると思います。
オーストリアの言葉は、基本はドイツ語ですが、なまってて、ドイツ人からするとよく分からないそうです。

斉藤さん:なぜ、32年のウィーンという時代設定なんでしょう?

グレアさん:最初に、フロイト博士をモチーフにすることが決まってました。
次に、第1次と、第2次世界大戦の間で、車はあるけど、生活は不便、今の町並みが使える、などの条件で決まりました。

監督もフロイトもユダヤ人で、コメディにするには他の要素が必要でした。
ナチスが台頭し始める時で、伯爵夫人が飲み屋帰りの兵士二人を襲うシーンは、ナチスを皮肉ってるんです。

フロイト博士が、吸血鬼に興味があったのは事実です。
アメリカの研究で、民主党が政権を握る前には吸血鬼映画が流行り、共和党の前にはゾンビが流行るというものがあります。
吸血鬼は個人主義、ゾンビは全体主義といった、時代の空気を表しているんです。

斉藤さん:吸血鬼をモチーフにした理由は?

グレアさん:私はシュタイアマルク出身ですが、地元の城に吸血鬼伝説の本があったり、身近だったことも理由の一つですね。
吸血鬼ものというのは、大抵、惚れた相手を噛むわけですし、そこにジレンマや悲喜交々が発生するわけです。
アメリカのトワイライトも同じですね。



斉藤さん:吸血鬼が細かいものを見ると、数えずにはいわれないというエピソードを、この映画で初めて見ました。
画家が、吸血鬼を描こうとするんだけど、筆先が曲がって描けないという表現も斬新でした。

グレアさん:数を数えるのは昔からある伝承なので、それを受け継ぎました。
絵に描けないという表現をああいう風にするのは、監督と考えました。

斉藤さん:キャストについて教えてください。
おそらく日本で一番有名なのは、召使役だと思います。「ブリキの太鼓」に出ていたダーフィト・ベンネント。
キャストはどうやって決まったのですか?

グレアさん:一番最初に、ルシーとヴィクトルを探しました。
ルシーは、美人だが自己主張が激しいという役で、難しかったので、時間をかけて選びました。

その後、「ユダヤ人ジュース」という映画に出てもらったトビアス・モレッティが決まりました。
彼に脚本を送ったら、興味を持ってくれたのです。

ダーフィト・ベンネントは「ブリキの太鼓」が有名ですが、そのあと音信が途絶えがちでした。
今ではオーストラリアに移って演劇をやっていて「やりたい仕事しかしない」ということで、心配していたのですが、今回、出演を引き受けてくれて良かったです。

この映画は、スイスと共同制作ですが、スイス人ですら、ダーフィトがスイス人だということを知りませんでした。ドイツ人だと思われてたんです。

斉藤さん:客席からも質問ありますか?

客席の女性:1階のおばあさんは有名な俳優さんですが、今回はちょい役でしたね。

グレアさん:私の手がけた中では3作品、出てもらっています。
86歳なんですが、1年に12作品も出てるんですよ。
演劇も歌もやっていて、ユーモアのある、活動的な方です。

客席の男性:ルシーやヴィクトルなどの名前って、他の吸血鬼作品にも出てきますよね? 意識してつけてますか?

グレアさん:思い出せないんです。偶然じゃないと思います。

斉藤さん:まさにフロイト的な無意識の産物ですね(笑)

グレアさん:悪役には悪役っぽい名前ってありますよね。
私のフルネームは、アレクサンダー・ギュンター・グレアと言いまして、ギュンターって、先生によく使われる名前なんですよ。

客席の女性:ルシーの肖像画、素敵でしたね。あの絵のモデルってあるんでしょうか?

グレアさん:モデルはないです。私はあの絵に不満です。「才能ある画家」って設定なのに、そうは見えないし。

斉藤さん:フロイトのためのスケッチは良かったですよ?

グレアさん:あれは別の人が描いたんです。

斉藤さん:グレアさんは、エゴン・シーレの映画を4年間作っていて、撮影が終了したばかりです。
また、ヒストリカ映画祭に来てくれるでしょうか?

グレアさん:来たいですね。

斉藤さん:予告編を見ましたが、美術などのクオリティ高いんですよ。監督はオーストリアの巨匠です。
それと、エゴン・シーレを扱っててヌードが出てこないわけがない。期待できますね。

グレアさん:オーストリアは、人口が少ない分、実験的でニッチな映画が作れます。シーレの映画もそうです。

是非、次もヒストリカに、監督の代わりで来たいですね(笑)

斉藤さん:監督と一緒に来てください!(笑)