11月3日、京都文化博物館において「阿部一族」上映後に、映画監督の犬童一心さんと 脚本家の古田求さんによるトークショーが行われました。

犬童監督:僕は1960年生まれで、若い頃はテレビ時代劇が隆盛でした。

古田さん:「阿部一族」は1995年放送でした。深作欣二監督が自分でやりたいと言って、テレビ局に企画を持ち込んだ作品です。

犬童監督:完成してから放送まで2年かかってますね。悲劇だから放送しづらかったのでしょうか。
その後に撮った「忠臣蔵外伝・四谷怪談」の方が早く公開されました。

古田さん:「阿部一族」は「ぴあ」に載らなかったんですよ。
普通は一週間前くらいに情報が乗るんですけどね。当日いきなり、新聞に放映するってことが載って。

犬童監督:脚本というのは、深作監督から頼まれたんですか?

古田さん:フジテレビに脚本を頼まれたんです。深作監督に全部任せてしまうとヤバイことになりますから(笑)

犬童監督:「阿部一族」って、史実と、森鴎外の原作と、熊谷久虎監督(原節子さんの義兄)の映画と、三つありますよね。
深作監督はどれをやりたかったんですか?



古田さん:映画は参考程度です。原作をやりたかったんです。ただ、原作は短いので、膨らませる必要があります。
長い期間、企画を練ってました。
深作監督は最初、藤真利子さんがやった役を、志穂美悦子さんで薙刀をもって戦わせるなんて案を出してました。

子どもが死ぬシーンなどは原作に書いてないので、脚本で付け加えた部分です。実際は家族構成も知らないですから。
逆に、立ち回りの最初の方は、原作そのままですね。

森鴎外は元軍医なので、野戦に比べて、市街戦の方が残虐であるということを知っています。
原作では、その様子を「皿の中で、多くの虫が食い合うような」と書いています。

脚本家としては、実際どう撮るかは監督にお任せですね。
脚本の通りに撮ってくれる監督なんて、いませんから(笑)

江戸から来た文化人の殿様と、その腹心の林外記が白塗りなのは、深作監督のアイデアです。
その後の「忠臣蔵外伝・四谷怪談」にも受け継がれています。

犬童監督:島原の乱を最後に、侍は不要になり、文官がのさばっていく。
「ワイルドバンチ」という映画を思い出します。居場所を無くした者たちが銃撃戦で死んでいくという。

古田さん:真田広之さんのセリフに「時代が気持ち悪く変わっていく」とありますが、あれも同じ気持ちでしょうね。これは深作監督の案です。

犬童監督:「阿部一族」は最初から最後まで、悪い方悪い方に転がっていきます。根本の理由は、時代の流れに押しつぶされたということでしょうね。
侍であろうとするから死んでいく。

藤真利子さん達が、自害しようとするシーン。
抑制された中で、渡辺美佐子さんの数珠が切れて、緊張が崩れ、耐えられなくなる。このシーン、素晴らしいですね。
私だったら「こんなにセリフが無いと、視聴者は分からないんじゃないか?」と不安になってしまいます。

犬童監督:藤真利子さんが真田さんを刺しますが、あれは真田さんに怒りが向かっているのではありません。
我が子を手にかけた悲しい狂乱で、世間に怒りが向かっているのです。

メインとなる兄弟だけでなく、女性や奉公人達のシーンも綿密に話し合って作り上げました。

奉公人が、ズラッと並んで「私たちは、短い年月の奉公じゃない。阿部家と運命を共にしたい」と言うシーン。
あのシーンまで、奉公人は一切出てこないんです。

普通なら出てくるであろう、長男が牢屋に入れられた時に噂話をするシーンも無いです。
あそこで一度に登場させる方が効果的だと思って、ああました。



犬童監督:槍を短く切ってから戦うというのもリアリティがあります。
そんな中、麻生祐未さんがお見舞いを持ってくるシーン、情緒的ですよね。

古田さん:脚本には、持っていくものが人形であるとは書いてないんですよ。

犬童監督:まんじゅうなどと違って、確実に子どもあての物だと分かります。
真田さんが人形を作っていて、気持ちがこもっているのも伝わる。
全員死んでいるシーンにあの人形があることで、いい映像になっていると思います。
深作監督は、セリフではなく映像で伝えていきたいと考える監督ですね。

古田さん:渡辺美佐子さんの役は、脚本ではセリフがないんです。
けど、完成した作品を見たら、セリフがあった(笑)深作監督が台詞を書き足したんですね。

脚本家は、監督のやりたいことを実現するのが仕事です。
深作監督から、ある時「佐藤浩市と真田広之の役を一人にしてくれ」と言われたことがあります。
「なるわけないやん」と内心思いましたが、言っても聞かないだろうと思い、その通りに脚本を書きました。
それを読んだ深作監督は「無理だな」と納得し、その話は無くなりました。

後日、深作監督が「古田君がアイデアを書いてくれたんだよ」と感謝していたということを知りました。

犬童監督:今では、民放のテレビ時代劇が無くなりましたが、古田さんは、時代劇人気を取り戻すにはどうすればいいと思いますか?

古田さん:時代劇は、人間の感情が分かりやすく表現できるところが良いと思います。
人間性が空っぽで、立ち回りだけ面白くても仕方ない。
人間が描けてこその時代劇です。
ただ、私が言っても、プロデューサーが言ってくれないと映画は取れないのですが(笑)