11月3日、京都文化博物館において、ヒストリカ・フォーカス プログラム『御家人斬九郎』が上映されました。
本作は渡辺謙が主演の斬九郎を演じ、当たり役となった本格娯楽テレビ時代劇です。今回上映されたのは第5シリーズの最終回、主演自らが監督を務めたことでも知られています。

上映後は、映画監督・CMディレクターの犬童一心さん、『御家人斬九郎』では監督を、最終回では監督補を務められた原田徹さんによるトークショーが開催されました。
また、途中より元フジテレビの能村庸一さんも参加。同局時代劇枠のプロデューサーとして活躍され、『御家人斬九郎』の企画も担当された能村さんによる、時代劇の裏話に大興奮でした!

■主演監督・渡辺謙!

犬童さん:実は、今回の上映作、渡辺謙さんが監督もされているんだって、気づかなかったんですよ。ヒストリカのパンフレットに書いてあるのを見ても、初めは「同姓同名の方がいるのかな」などと思いました(笑)。どのような経緯で、主演監督ということになったのですか?

原田さん:第5シリーズまで続いた作品の最終回ということもあって、企画の能村さんと渡辺さんの間で話が持ち上がったのではないでしょうか。
 ある時、謙さんに食事に誘われて、「最終回の監督をすることになったけど、俺は主役でほとんど出ずっぱりだから、俺の出演シーンは頼むよ」と言われました。斬九郎に携わった監督は他に何人もいたのですが、たまたま私に声がかかった。「じゃあ、やりますか」ということになったんです。

犬童さん:監督・渡辺謙さんはいかがでしたか? 最終回で共演された山崎努さんのことを、謙さんはとても尊敬されていますが、山崎さんへの演出はどのような感じだったのでしょうか。

原田さん:謙さんからは、シーンごとに「こうやりたい」という要望はありましたが、あとは「お任せ」でした。
 山崎さんとは、おそらくセットに入る前に話し合われたのではないでしょうか。我々は、彼らの芝居の邪魔をしないように黙々と仕事をするだけだと思っていました。テレビ番組の撮影は、とにかく時間がありませんから。通常の制作期間は、1時間ものだと1週間、2時間もので2週間です。斬九郎の最終回はスペシャルでしたので、10日間ほどだったと思います。

■雪降らしを熟知したスタッフ

原田さん:『御家人斬九郎』の制作は、旧大映の流れを組む映像京都が行っています。美術監督でもある社長の西岡善信さんをはじめ、特に職人気質のスタッフが集まっていた制作プロダクションだったと思います。彼らに任せておけば、いいセットが組み上がりましたし、照明もしっかりやってくれました。
 最終回、終盤に雪が降っていたでしょう。法然院の境内を使わせてもらったシーンなんですけど、あれは実際に雪が降る中で撮影しました。照明技師の中岡源権さんがね、セットでの撮影を終え夕食を食べている私たちに「おい、行くぞ」って言うんです。「雪が降ったから、法然院に行くぞ」って。雪のシーンでは、綿を敷いたり塩を撒いたりして撮ったりもするのですが、あそこの境内ではそれがNGで。本物の雪が降ったからというので、他の撮影はすべて放り出して行ったのを覚えています。

犬童さん:なるほど。あの門のシーンは本物の雪だったんですね。雪のシーン、映像がすごくジャパネスクというか、雪の中を着物の女性が走っていて、死体があって……という、ある種の美学を感じさせるまでに仕上がっていたと思います。

原田さん:もちろん人工雪を使ったシーンもあります。石鹸の泡を吹かせるマシーンが出始めた頃で、それを使いました。

犬童さん:泡の雪のよさが出ていますよね。CGの雪だと後から計算して入れますけど、計算のきかない雪が風に吹かれながら落ちていく様がいいです。

原田さん:雪をうまく降らせることができたのは、スタッフが全員、五社さん(五社英雄監督)の『226』の制作に携わっていたからです。あの作品は雪のシーンばかりでしたから、彼らにちゃんとノウハウがあったんです。『226』では、すりおろした麩を使ったらどうかなど、ずいぶんと試行錯誤したようですから。

犬童さん:雪降らしに関しては、スタッフが熟知していたということなんですね。では、ここらへんでそろそろ能村さんにご登場いただきましょうか。



■私もこの作品が大好きだったので

犬童さん:能村さんは、フジテレビの時代劇をものすごくたくさん制作されてきました。先ほど聞いたところによると、スペシャル番組だけで100本も作られたそうですね。また、『実録 テレビ時代劇史』という、テレビ時代劇について網羅している本の著者でもあります。テレビ時代劇の歴史について知りたければ、能村さんの本を買われるとまちがいなしですよ。
 さて、能村さんは久しぶりに斬九郎をご覧になっていかがですか?

能村さん:いやあ、面白かったですね。シリーズをずっと視聴してくださっていた方は、この最終回がいつもの調子とは少し違うように思えたのではないでしょうか。あの回を撮ることになって最初に謙さんが言ったのが、たしか「『薄桜記』のようなチャンバラをやってみたい」でした。そのテイストは入っていたと思います。
 謙さんは雪の中のチャンバラシーン、斬九郎の死をもってシリーズを終わらせたかったのだと思います。それについては、実は私が異を唱えました。5年間続けてきた「シリアスな展開になっても、最後はいつもの調子に戻る」という作品のテイストをガラッと変えることに抵抗があったのです。そこで、最後の最後、死んだと思っていた斬九郎は明治の代で車夫になっていましたというシーンを入れることになりました。
 ずいぶん経って謙さんに再会した時、よせばいいのに「あの車夫のシーンは、斬九郎が実は生きていましたってことでいいんですよね?」と聞いてみたんですよ。作った本人が言うのも変な話なんですが(笑)。そうしたら謙さんから「能村さんがそうしろって言ったんじゃないですか」なんて返って来まして(笑)。彼は、本当は不満だったんでしょう。

原田さん:オンエアのラストでQUEENの「The Show Must Go On」を使うと伝えた時も、能村さんのお叱りを受けました。

能村さん:佐藤勝さんという大作曲家がいるのに。

犬童さん:謙さんもそれだけ本気だったってことですよね。だからこそラストへのこだわりも強かったのだと。

能村さん:そうですね。だから、あのラストでもよかったとは思います。でもね、5年間やってきて私だってこの作品が大好きだったから、最後まで斬九郎テイストを崩したくなかったんですよ。だから、時代をポンと飛ばして、実は生きていましたというラストも入れたいと思ったんです。
 今日、改めて観て笑っちゃった(笑)。そうか、明治時代のシーンをタイトルバックに流すことで、シャレにも思えるなと感じました。斬九郎の死が曖昧になっているなと。謙さんにとってのラストはチャンバラのシーンで、あそこで終わっていれば名作みたいになっていたかもしれませんが、それじゃやっぱり斬九郎じゃないんです。

犬童さん:シャレで終わっているというのは、十分に伝わっていると思います。私は好きですよ。斬九郎は死んでいるから、あれは彼が見た夢だとも考えられます。そうじゃなくて、本当に生き残ったのだともとれる。または、そっくりな別人の話だとしてもおかしくありません。こちらに想像するのを任せてくれるシーンだと思います。
 それに、最後に冒頭のテイストに戻ってくれると安心します。テレビ番組だとなおさらです。必殺シリーズでもそうでしたが、日常のシーンが最後に入ることで、子ども心にもほっとしました。人の生き死になんて重たいテーマで終わって、そのまま翌週まで引きずりたくないと思ってしまうんですね。真剣に視聴すればするほど、その思いは強いように思います。
 原田さんは、あのラストシーンはいかがですか?

原田さん:斬九郎は、散切り頭が似合わないですよ(笑)。



■平成の時代劇ブーム

犬童さん:今日のヒストリカ・フォーカスのプログラムは、4作品とも能村さんが作られたものですよね。『森の石松』『阿部一族』『町奉行日記』そして『御家人斬九郎』。簡単に言ってしまうと、どの作品もテイストがバラバラですよね。

能村さん:つかの間訪れた“平成の時代劇ブーム”の頃でした。最初に携わったのが『鬼平犯科帳』です。鬼平がうまくいって水曜8時の枠に定着した時に、「このチャンスを逃したくない」と考えました。時代劇がトレンディードラマにおされて衰退していた時の、思いがけない復活でしたので。
 私自身、もともと『鞍馬天狗』などの作品に親しんで育った時代劇大好き人間です。視聴率という宿命の中で消えていった時代劇の中には、良質で面白いジャンルがたくさんありました。時代劇を任された時、それらのジャンル――仇討もの、貴種流離譚、コメディなどを片端からやってやろうと思いました。それから、時代劇を後世に残すために、松竹、東映、映像京都などの制作会社同士の交流が必要だとも考えました。そうして最初にやったのが、仲代達矢さん主演の時代劇スペシャル『十三人の刺客』です。

原田さん:あれね。参勤交代の。大変だったやつ。

能村さん:その次にやったのが、忘れもしない杉良太郎さんの『大岡政談 魔像』という作品です。

原田さん:あれも大変でしたね。

能村さん:大変な作品ばかりに呼ばれているね(笑)。そんな中で、今日上映された『森の石松』なんかはご存じもので、『阿部一族』はとんでもない文芸ものといいますか、そういうのも手がけました。『阿部一族』の制作時、深作さん(深作欣二監督)に「能村さん、あの異様な物語を、異様に撮りますから。それでよろしいですね」なんて言われまして(笑)。いやとは言えませんから「はい」と答えましたけど。深作さんにお任せしたからこそ、あのような作品に仕上げることができたと思います。

犬童さん:あの映像には度肝を抜かれますよ。すごかったです。

原田さん:僕は深作さんの作品に何本か携わっていますが、『阿部一族』が一番きつかったですよ。寝る時間がなくて、24時間体制を2か月半ほど続けました。まあ、でもこの時期に他の制作会社との交流ができて、いろいろなことができたのはよかったと思います。新しい感覚の時代劇に挑戦できたのは、若いスタッフにとっても楽しかったです。

能村さん:様々なジャンルに挑戦できる環境は大切です。冷徹な視聴率に負けて売れ筋のジャンルばかりをやっていると、他にもいい作品があるのに忘れられてしまう。あの時代劇ブームのちょっとしたゆとりの中で、精力的に挑戦できたことはよかったですね。

犬童さん:能村さんのように局の方が時代劇好きだとわかると、スタッフのやる気も違ってくるのではないかと思います。

■次の時代劇を育てたい

能村さん:チャンバラのない時代劇って、ちょっと物足りない気がしますね。もちろん、チャンバラのない作品にもいいものがありますけれど。

原田さん:チャンバラ、撮っていて面白いです。

能村さん:だいぶ文芸よりの方でも「チャンバラがないと時代劇じゃない」と言われます。殺し合いというのではなくて、悪を絶つ、成敗するということ自体がいいのかもしれませんね。

犬童さん:水戸黄門、必殺シリーズ。 ジャンルは違っても、チャンバラってかっこいいです。視聴者は人が殺されることについては、あまり意識していないですよ。ストーリー上では死んでるんですけど。作品ごとに異なるかっこいいダンスを鑑賞しているような気分になります。



能村さん:ある意味では、それでいいんだと思います。チャンバラの語源って「チャンチャンと斬り結んで、バラバラと倒れる」なのだそうです。そういうものなんですね。殺し合いを描いていても、どこかロマンを感じる。遊び感覚があるといいますか、そういう作品がいいんです。テレビ時代劇では特にそうです。
 市川崑監督の『木枯し紋次郎』は私の先輩が担当だったのですが、監督が「血をもっと出せ」と言うのに猛反対したそうです。あの市川崑をブースに閉じ込めて「それだけは絶対にやっちゃだめです! それだけはできません!」と迫ったそうで。リアリティを追及するのでも、そこはけじめというのですかね。

犬童さん:テレビの時代劇であまり血が出るのもね(笑)。

能村さん:あと“平成の時代劇ブーム”当時は、渡辺謙さんとか役所広司さんとか佐藤浩市さんとか真田広之さんとか、若い旬の俳優さんを呼べたのもよかったですね。私は、演技に徹する中にも、個人の魅力が残っている方が好きです。渡辺謙さんもそうですよね。演技派と言うにはあまりにもスターというね。謙さんは何もしなくても、立っているだけで様になるんです。
 持論ですが、喜怒哀楽の楽の表情がいい人が、時代劇向きかなと思います。怒っている表情なんかは演じやすいですから。これは私の好みかもしれませんけれど。

犬童さん:『町奉行日記』のトークで加藤さんとも話したんですが、やっぱりただ立っているだけで力のある人じゃないと、時代劇はやりづらい部分があるんじゃないかって。私は、若い俳優さんにどんどん時代劇に入って来てほしいと思うんですよ。映画を撮っていても、「ああ、この人は時代劇に映えそうだな」と思うことがしばしばあります。

能村さん:地上波で時代劇がほとんど放送されなくなってしまいましたね。今は、BSやCSで少しずつ積み上げていく段階だと思っています。ですが、時代劇向きの若い俳優さんもそうですが、やはり地上波で放送されてこそ育つのですよね。私が鬼平に携わった時に味わった感動を、もう一度復活させたいのですが。局がやる気にならないと!

犬童さん:それから、時代劇にはフィルムの質感が合っているように思います。何でもつぶさに映してしまうのではなく、視聴者の想像力をかきたてるような映像こそ、時代劇向きじゃないかなと。

原田さん:フィルムもカメラもありますよ! フィルムでやりたいですよ。