11月3日、京都文化博物館において『町奉行 日記』上映後に、映画監督の犬童一心さんと プロデューサーの加藤貢さんによるトークショーが行われました。

犬童監督:『町奉行日記』は1992年放送で すから、およそ20年前のドラマです。
この頃の時代劇は豪華ですね。橋のセットが大 掛かりです。

加藤さん:橋は、フジテレビから5千万円の追 加予算をもらって作りました。
工藤栄一監督が「藩と濠外(ほりそと)の境界 を表すために、どうしても橋が必要だ」と言い出したので。

元々フジテレビからは多額の予算をもらってい ましたが、足りなくなってしまったんです。
当時の編成部長の重村一さん(現在のニッポン 放送会長)に頼みに行ったら、「橋がないとドラマ作れないんでしょ? いいよ」と言って、あっさり判子を押してくれました。

犬童監督:5千万円というのは、橋だけでですか?

加藤さん:いえ。橋とたもとの町の一部です ね。
琵琶湖に建てたのですが、公共の公園がある場 所だったので、撮影が終わると撤去しなければなりませんでした。
名残惜しいので、最後に橋のたもとで、皆で酒 盛りしました。工藤監督が、愛おしそうに、橋にお神酒をかけていたのを覚えてます。

犬童監督:『町奉行日記』の中で、舟が進んで いって、見たことのない橋が現れる。この映像のスケールが素晴らしいですね。
フジテレビの大英断だと思います。

加藤さん:監督にも色んなタイプがあります が、工藤監督は役者を指導する時、自分で演じて見せるタイプの監督です。謙ちゃんにもそうしてい ました。

犬童監督:謙ちゃん?

加藤さん:東映では、健さんと言えば高倉健さ んのことなので、渡辺謙さんのことは、皆、謙ちゃんと呼んでいます。
そういえば、深作欣二監督も、自分で演じて見 せるタイプの監督だったんですよ。

犬童監督:そういった指導が、町奉行の魅力的 な人間性につながっていくんですね。
『町奉行日記』と同じ原作で、後に映画「どら 平太」も作られるくらいですから、人気のあるキャラクターです。
そもそも『町奉行日記』は、最初に誰がやりた いと言った企画なんですか?

加藤さん:能村庸一さんだったと思います。『阿 部一族』と同じ特別スペシャル枠ですね。

それと、もうひとつのきっかけは『町奉行日記』の8年前 です。
渡辺謙さんが新人だった頃『弐十手物語』を工 藤監督と撮りました。
ところが、視聴率が悪くて打ち切りになったん です。謙さんに申し訳ないと思っていました。

その後、謙さんは大河ドラマ『独眼竜政宗』で 大ブレイクしましたが、病気で2年間療養を余儀なくされました。
回復した頃、工藤監督と「謙ちゃんを主役にリ ベンジしたいね」と言って、『町奉行日記』が生まれました。

犬童監督:当時の時代劇って、監督よりもス ターが中心というイメージがあります。
謙さんは、違うタイプだったのでしょうか?



加藤さん:そうです。謙さんは劇団出身ですか ら、東映から見ると、よそから来た人です。

工藤監督は、俳優の大友柳太朗さんが大好きで した。
謙さんが新人の頃から「大友に似ている」と 言って、謙さんのことも大好きだったんです。
そういう気持ちは相手に伝わりますね。

工藤監督は、スタッフの隅々にまで声をかける 人でした。自分でトンカチ持って、セットも直しちゃう。
監督の姿を見て、スタッフも他の人のことを手 伝うようになり、チームワークが良くなりました。
スタッフは皆、工藤監督のことが大好きでし た。

僕は元々、現代劇がやりたいと思って、東映に 入社しました。
ところが、『銭形平次』が500話を超えた頃 から、視聴率が10%にまで落ちました。
その頃、ライバルである松竹は『必殺仕掛人』が 絶好調。

東映の上層部は焦り「プロデューサーを一新し ろ!」と言い出して、僕がいやいや京都に行くことになりました。
その時は、あと1年くらいで打ち切られるだろ う、それまでの我慢だと思っていたのです。
ところがその後、視聴率が15%くらいまで回 復しました。
僕は何もしていません。主役の大川橋蔵さんに ゴマをすってただけです(笑)

結局『銭形平次』を8年間やりました。
そしたら、東映の上層部に「あいつは時代劇が 得意なんだ」と思われてしまって、それから40年弱、時代劇ばかりやっています。

テレビって、誰が見ているか分からないのです が、今日はこうやってお客さんの顔が見られて、とても嬉しいです。

犬童監督:時代劇に向いてる俳優さんって、ど んな人だと思いますか?

加藤さん:私は、俳優さんを少人数しか知りま せん。
その中で言うなら、北大路欣也さんは時代劇の スターだなと思いますね。
渡辺謙さんにも共通していることですが、時代 劇をやっている時に、実物より大きく見えますね。華があります。

若い俳優は、時代劇をやりたがらないんです よ。
カツラをかぶるとハゲるとか、時代劇の所作が できないと、京都の東映撮影所でスタッフにいじめられるとか、都市伝説があるみたいで(笑)



犬童監督:僕は、渡辺謙さんとCMの仕事でご 一緒したことがあります。
一緒に麻婆豆腐を食べたことがあるんですけ ど、存在感が大きすぎて、日常の風景に収まってない感じがしました。
そして、嘘のようにいい人ですよね。
世間話も普通にできるし、朝、誰よりも早く現 場に来たりされますし。

ところで、時代劇を撮りたいのですが、なかな か企画が通りません。
今まで撮れたのって、『のぼうの城』だけで す。
企画を通すコツってありますか?

加藤さん:明日から、北大路欣也さん主演でス ペシャルドラマを撮ります。藤沢周平原作の『三屋清左衛門残日録』です。
20年前に、仲代達矢さん主演でNHKでドラ マ化されました。
それを見て、ずっと北大路さん主演でやりた かったんです。やっと叶いました。

企画を考える時は、ベストセラーを何十冊も読 んだりとか、勉強したりとかはしません。
何気ない時にインスピレーションを得ることが 多いです。
頭の中に、常に北大路さんのことがあるんだと 思います(笑)

北大路さんはお酒を飲まないんですが、代わり に電話魔なんですよ(笑)
夜10時くらいにかかってくるんです。それが どうでもいい内容で。
「『3匹のおっさん』を撮ってるんだけど、寒 いから電話した」とか言うんですよ。
他にも2人、殺陣師の菅原俊夫さんと、東映の 製作の山本吉応さんに、ヒマな時、よく電話してるそうです。

非通知なので、3人で相談して「夜10時以降 の非通知には出ないようにしよう」と決めたのですが、今度は自宅にかかってくるんです(笑)
ヒドイのは、僕たち3人以外の、女優さんとか にはちゃんと通知して電話かけてるんですよ。

そんな電話攻撃を受けてるので、ボーッとして ても、北大路さんのことを考えてしまうんでしょうね(笑)