11月6日、京都文化博物館において、ヒストリカ・フォーカス プログラム『殿さま風来坊 隠れ旅』第1話(スペシャル)が上映されました。
本作では、三田村邦彦が「治さん(徳川治貞)」を好演しました。西岡徳馬演じる「宗さん(徳川宗睦)」共々、華麗に早着替えする(変身する)立ち回りのシーンが見どころの一つでもあります。

上映後は、映画監督・CMディレクターの犬童一心さん、『殿さま風来坊 隠れ旅』の他『将軍の隠密! 影十八』など数々の時代劇をプロデュースされた小嶋雄嗣さんによるトークショーが開催されました。

■時代劇に染まり切っていない俳優を起用

犬童さん:この『殿さま風来坊 隠れ旅』をご覧になったのはいつぶりですか?

小嶋さん:オンエア以来ですから、20年ぶりくらいでしょうか。自分が携わった作品を振り返ることがないので、本当に久しぶりです。旧作というのは恥ずかしいものですね(笑)。映像が古くて。「今だったらこうやったのに」と思う部分がたくさんありました。

犬童さん:これ「てんこ盛り」な作品ですね。ヒストリカ・フォーカスで様々な作品を観て来ましたが、1話の中に入っている情報量で言えば、この作品が一番ではないかと思いました。

小嶋さん:たぶんそうですね。私自身がいろいろと盛り込みたがるんですよ。特にこれは私がプロデューサーになった最初の頃の作品なので、「あれもこれも」と思い切っています。そういう意味では、消化不良の部分もあったかなとは思います。欲張り過ぎたかな(笑)。

犬童さん:これは1994年の作品で、当時としては新しい俳優さんを積極的に起用されていますよね。時代劇を演じるという意味で、新しい方々がたくさん出演されています。

小嶋さん:そうですね。この作品は、まず「三田村邦彦で撮りたい」というところからスタートしています。三田村さんは必殺シリーズで注目を浴びた後、『将軍家光忍び旅』『将軍家光忍び旅Ⅱ』で主演を務められました。本作では、家光シリーズに続く3本目の主演です。その当時ですと、北大路欣也さん、松方弘樹さん、杉良太郎さんなど大御所の時代劇スターがいらっしゃいましたので、三田村さん主演で時代劇をということ自体が新しい考えでした。衰退していた時代劇が盛り返していた時期でもありましたので、新しい役者で、新しいことをして視聴者層を広げたいという想いがありました。



犬童さん:従来の時代劇スターが一人も出ていないなと思いました。

小嶋さん:脇役についても、あまり時代劇に染まっていない方にお願いしています。それは局の意向でもありました。

犬童さん:三田村さんも西岡さんも新劇出身ですよね。あと、神山繁さんも時代劇のイメージがなかったです。

小嶋さん:神山さんも現代劇のイメージですよね。知的な役が多い印象でしたが、そんな彼に、あえてちょっと間抜けな甚左を演じてもらったんです。

犬童さん:神山さん、嬉々として演じられているのがよくわかります。めったにやらない役柄を楽しんでいるのかなと思いました。

小嶋さん:そうですね。立ち回りの後で駆けつけた甚左が、鷹の羽が落ちているのを見つけて「遅かったか……」と嘆くのがお決まりだったのですが、神山さんはそのためだけに出ていただいたようなものです(笑)。それだけのために、毎回喜んで出演いただいていました。

■明るく楽しい勧善懲悪

小嶋さん:この作品は、テレビ朝日系の土曜日夜8時の枠で、『暴れん坊将軍』と半年交代で放送されました。

犬童さん:これ、原作がありませんよね。設定やキャラクターをゼロから作る時どうするのかなって、すごく知りたいのですが。企画スタート時に「痛快娯楽時代劇にしよう」というざっくりとしたコンセプトはあったとしても、それ以外のところはどうやって決めていかれたのでしょうか。

小嶋さん:「三田村さんで時代劇をやろう」ということだけは決まっていました。だったら『将軍家光忍び旅』と同じことをしても面白くないな、というのはありましたね。
 私の中では、東映の王道である“明るい時代劇”がいいなというのがありました。はじけた番組にしたかったんです。赤や黄など派手な色をたくさん使いたいなとも思いました。“明るく楽しい勧善懲悪”がいいなと。
 ところが、20年前は、そういった東映の王道があまり受け入れられない時期で。どちらかというと真面目で、ちょっと暗めでという、そういう作品が多かったですね。逆に、そうした雰囲気が時代劇の可能性を狭めていると感じていました。



犬童さん:ちょっと暗めでというと、必殺シリーズもそうでしょうか?

小嶋さん:そうですね。必殺シリーズのコンセプトはアンチ東映でしたから。東映らしくないものをという意識がありましたからね。ですが、東映がそれに引っ張られる必要はないなと。開き直って“娯楽の東映”をやろうと思いました。
 そこで参考にしたのが沢島忠さんです。沢島さんの作品に『殿さま弥次喜多』シリーズというのがありました。初代中村錦之助(萬屋錦之介)さん、中村嘉葎雄さん兄弟が共演されていた作品です。これも紀州と尾張の殿さまが旅をして、毎回ガチャガチャするという話でした。

犬童さん:ほとんど同じですね(笑)。

小嶋さん:その設定だけ頂戴して。ただ、出て来るキャラクターたちは違うものにしようと。主役もだいぶ違います。

犬童さん:主演の三田村さんに合わせたキャラづくりをされたんですね。

小嶋さん:三田村さんとかぶらないようにと、他のキャラクターを固めていきました。相手役にちょっと渋めの西岡さんをと考えたのもそうですね。殺陣に関しても、主役の三田村さんが剣だったら、西岡さんは槍にしようという感じで考えました。西岡さんが槍を得意にしていたとか、そういうことではなかったんです。持ったこともなかった槍を持っていただきました。
 こうして、ベースは王道を行きつつ見た目は新しい『殿さま風来坊 隠れ旅』は形になっていきました。

犬童さん:役柄としては見たことがあるけれど、テイストが新しいキャラクターが生まれたんですね。

小嶋さん:時代劇にはいろんな可能性があると思うんです。シリアス、コメディ、どんなジャンルも受け入れてくれる懐の深さがあると言うのでしょうか。だからこそ、いろいろと挑戦したいなと思いました。
 実は、今日観た第1話では、シリーズ中で最もオーソドックスな時代劇をやりました。話が進むにつれて「本当にここまでやっていいの?」という回もあってですね。空飛ぶ円盤が出て来たり、火野正平さん演じる平賀源内が自転車に乗ったりね(笑)。

犬童さん:どんどんノッてきたんですね(笑)。

小嶋さん:自転車なんて江戸時代にはもちろんないけれど、平賀源内なら何やってもいいかなって(笑)。自転車も乗っちゃっていいやって(笑)。

犬童さん:時代劇の中では「平賀源内は何をやってもいい」っていう伝統がありますよね(笑)。

小嶋さん:火野さんにも喜んで演じていただきました。毎回「えーっ、こんなことやっていいのー?」なんて言いながら、とても楽しんでくださいました。

■スタッフに恵まれた作品

犬童さん:脚本は鈴木則文さんなんですね。鈴木さんといえば『トラック野郎』シリーズなどが有名です。なぜ鈴木さんに依頼されたのでしょうか?

小嶋さん:私たちは彼を「コーブンさん」と呼んでいました。すぐに興奮されるのでコーブンさんです(笑)。コーブンさんには、企画の段階から加わっていただいて。東映の作品をよく研究されていましたし、何よりガチャガチャもののアイディアが豊富な方だったので。
 立ち回りのシーンで、歌舞伎の引き抜きのような衣装の早着替えがありますよね。睦さんなんて「どこに槍持ってたのっ?」って思うんですが、あれもコーブンさんが「このくらいやんなきゃつまんないだろ!」って言うんで、ああなったんです(笑)。完全に悪ノリです(笑)。そういう思い切ったことをしてくださるだろうという目論見があって、お願いしましたから。



犬童さん:もう一つ、この当時の他の時代劇と比べて、すごくしっかりと撮影されているなと思いました。奥行きが出ているし、陰影もはっきりしています。ライティングも細かいですよ。

小嶋さん:そういうふうに、スタッフが判断してやってくれたのだと思います。衣装も派手ですし、たくさん色を使っていましたので、ペタッとすると画が見づらくなってしまったでしょうから。

犬童さん:時代劇出身ではない俳優さんたちで撮る際に、困ったことなどはありましたか?

小嶋さん:特にありませんでした。ドラマを撮るという意味では、現代劇も時代劇も同じですから。俳優さんたちは戸惑うことがあったと思いますけれど、彼らを囲む演者たちが時代劇を熟知していましたので。例えば、第1話に登場した、お京と染吉以外の芝居小屋の面々は京都の大部屋の役者さんたちです。紀州藩邸のシーンでも、小島三児さんと神山さん以外は全員大部屋の方でしたし。
 時代劇の経験が豊富なスタッフに恵まれていましたので、ある程度任せておいて大丈夫という安心感がありました。

■技術の継承に危機感

小嶋さん:『殿さま風来坊 隠れ旅』の立ち回りでは、剣会の面々が「いかに主役がかっこよく映るか」を考えて動いてくださいましたので大変助かりました。今は、あれだけしっかりと計算して動いてくださる方は一握りですね。極端な話、彼らのおかげで主役が何もしなくてもかっこよく見えるんですよ。三田村さんも西岡さんも時代劇慣れしていなくて、殺陣もあまりうまくないんです。三田村さんは見様見真似で奮闘してくださいましたが、どうしても腰が高いんですよ。それを剣会の方々が不自然に見えないように動いてくださっている。今日改めて「剣会ってすごいな」と思いました。

犬童さん:三田村さんも回を重ねるごとに様になっていかれたでしょうけれど。初めは慣れないですよね、やっぱり。必殺シリーズで演じた秀の殺陣は、どちらかというと現代アクション系でしたからね。その経験不足を周りが補う技術があれば、十分に面白く仕上がるということですよね。

小嶋さん:東映の剣会といえば福本清三さんが有名ですが、14、5人ほどのプロの殺陣集団です。加えて養成所で稽古をしている方々もいますが、今は場数が踏める状況ではないですね。本当なら、どんどん現場に出て、先輩に怒られながら成長していくのですが、それができない。新作時代劇を撮る機会がめっきり減ってしまいましたから。年に数回の立ち回りでは、どうしても技術の継承が難しくなります。私は、この現状には危機感を抱いているんです。時代劇の底がどんどん浅くなっていくなと。
 斬られ役が主役をぱっと取り囲めるかどうか、それひとつ取っても技術の有無でだいぶ違ってきますから。ですが、今は技術のある方々が高齢になってきて、「年寄りを斬るのはかわいそうだ」なんて状況になってきていますからね(笑)。

犬童さん:時代劇専門チャンネルは契約者数が増加しているらしいので、需要はあると思うんですけどね。

小嶋さん:それでも再放送が主で、新作は年に数本というのが現状です。少なくとも週に1~2回は新作が視聴できた過去を考えると、今はつらくてさみしい時代だなと思います。週に1本は新作ができるようにならないと、ですね。

犬童さん:若い俳優の能力を時代劇に活かす道も、もっとできてほしいなと思います。彼らも時代劇の魅力を知ることができれば、そのきっかけさえあればと願ってやみません。

小嶋さん:若い俳優さんで「時代劇って暴れられるからいいですね」なんて言う方もいましたしね(笑)。時代劇って、面倒臭い作法などがあるイメージですが、ぜんぜんそんなことないんですよ。娯楽時代劇はやりたい放題やっていますよ(笑)。俳優さんにはやんちゃでエネルギーのある方も多いですから、ピッタリじゃないかな。

犬童さん:私もね、一度時代劇を撮ったら、また撮りたくて仕方ないです。時代劇って幅があって、いろんな可能性を秘めていると思います。