11月7日(土)、京都文化博物館において、第7回京都ヒストリカ国際映画祭ヒストリカ・ワールド『大河の抱擁 EMBRACE OF THE SERPENT』が日本初上映されました。

20世紀初頭、アマゾンを訪れた白人探検家と先住民であるシャーマンがアマゾン川流域を巡る、神秘的な世界が美しいモノクロ映像で展開されます。コロンビアの監督チロ・ゲーラは今作で2015年カンヌ監督週間最高賞を受賞しました。

上映後、スペイン語圏の最新映画を紹介しているラテンビート映画祭のプロデューサー、アルベルト・カレロ・ルゴさんが登場。ラテンアメリカ映画の歴史、コロンビア映画の現在の状況などを語っていただきました。

■近年隆盛を誇るラテンアメリカ映画。

最近ラテンアメリカの映画は世界でも注目され、第87回アカデミー賞でも、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが手がけた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』が作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞の4部門に輝いています。また第86回アカデミー賞では『ゼロ・グラビティ』でメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロンが監督賞、エマニュエル・ルベツキが撮影賞を獲得。メキシコとケニアの国籍を持つルピタ・ニョンゴが『それでも夜は明ける』で最優秀助演女優賞を獲得しています。第85回アカデミー賞では、チリのパブロ・ラライン監督の『NO』が外国語映画賞にノミネートされました。ここ5年を見ても世界有数の国際映画祭でラテンアメリカ映画が高い評価を受け、先週も、第28回東京国際映画祭でブラジルの作品『ニーゼ』が東京グランプリを獲得しました。

この5年、ラテンアメリカで映画を頑張っている国が、メキシコ・チリ・コロンビア。3カ国の中でもメキシコは映画の潜在力が高く、ハリウッドに近いこともあって、若い映画人が育っています。ラテンアメリカはテレビ業界が強いのが特徴で、コロンビアは1980年代からテレビドラマが強いです。人気ドラマ『アグリー・ベティ』は1998年にコロンビアから始まり、アメリカ他世界19カ国でリメイクされました。コロンビアの女優ソフィア・ベルガラは、2009年から放映されているアメリカのコメディドラマ『モダン・ファミリー』に出演。このドラマはゴールデングローブ賞など様々な賞に輝き、ソフィア・ベルガラはギャラの高いテレビ女優として人気を得ました。高い評価を得た技術陣や俳優はテレビから世界へ飛び出して行きます。そして2003年、コロンビアに新しく「映画法」ができて映画産業が発展していくのです。

現在、ラテンアメリカ映画で注目されているのは、メキシコではガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナのプロダクション“カナナフィルムズ”。チリでは『NO』パブロ・ラライン監督が創設したプロダクション“ファブラ”。コロンビアではプロダクション“ダイナモ”や、ラテンビート映画祭でも上映した『暗殺者と呼ばれた男(Roa)』のアンドレス・バイス・オチョア監督らの活躍です。



■コロンビア映画を牽引した3人の作家。

コロンビアの映画において重要な3人の作家をご紹介します。

1人目はガブリエル・ガルシア=マルケス。ノーベル文学賞を獲った作家として有名ですが、映画にも大きな関心を持っています。1954年、シュールレアリズムな短編映画『La langosta azul(青いエビ・日本未公開)』に製作者として名を連ねるほか、脚本家としても優秀でした。1986年にはキューバでハバナ国際映画テレビ学校(EICTV)を設立するなど、映画・映像分野での新しい作家を育てる助力もしています。

2人目はフェルナンド・バジェホ。映画監督から作家になり、検閲によりコロンビアからメキシコに渡りました。残念ながら日本では未公開ですが1999年に彼の小説『暗殺者(シカリオ)の聖母』が映画化され、欧米など国外でも知られています。

3人目はアンドレス・カイセド。カリという街でシネマクラブを立ちあげた人です。『Liveforever(音楽は生きている・日本未公開)』は、2014年にカルロス・モレノ監督により映画化され、サンダンス映画祭で上映されました。アンドレス・カイセドは作品を書き上げて自殺しています。

残念ながら日本ではコロンビア文学に隔たりがあり、翻訳されていない小説が多く、馴染みのない話をしているかもしれません。

■「映画法」から飛躍するコロンビア映画。

今回ご覧になった珍しい作品が作られたきっかけとも言える、コロンビアで2003年に制定された「映画法」についてお話します。

1990年代になり、セルヒオ・カブレラ監督の『La estrategia del caracol(カタツムリ戦術・日本未公開)』が公開され、この作品でコロンビア人自身が自国製作の映画を見ようという機運が高まりました。またビクトル・ガビリア監督がカンヌ国際映画祭で認められ、この監督の成功、活躍で政府も「映画法」の成立に乗り出したのです。2004年には『そして、ひと粒のひかり』でコロンビア出身の女優、カタリーナ・サンディノ・モレノがベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞しました。

「映画法」は世界にも類を見ない素晴らしさで、財政面・税制面の優遇があり、国内の映画に100ドル投資すると160ドル税金が還って来ます。日本でできるでしょうか。コロンビアは経済的にも安定していない寒い状態が続いていましたが、この法律ができてから、コロンビア人で1年間に国内製作の映画を見た人が3.3%から10%、1割に増えました。ちなみにコロンビアの人口は5千万人。興行収入の7割が次の映画製作や、コンペティションの応募なども対象となり、2003年から2015年の12年間の内、4100万ドルが映画製作にあてられることとなりました。映画を作るだけでなく海外でのコロンビア映画の配給、映画ソフトの保存・修復、映画鑑賞にも使われています。

さらに2012年に新しいルールが付け加えられて、外国の映画をコロンビアで作ることを奨励。メキシコ出身のパトリシア・リゲン監督が、2010年8月にチリのサンホセ鉱山で起きた落盤事件を映画化した『The 33(原題)』。アントニオ・バンデラス主演で2016年春公開予定です。また、つい最近撮影が終わったトム・クルーズ主演の新作映画『メナ(原題)』は2017年日本公開予定です。



■『大河の抱擁』から見るラテンアメリカ。

今日ご覧いただいた『大河の抱擁』を見て感じるのは、アマゾン川流域の人たちが、植物をどれだけ大切にしてきたかということ。ヤクルナという薬草を探しながら、夢を見る、夢を得る、夢を引き起こす…。幻覚作用を持つ植物をこれだけ取り上げて、原住民たちが守ろうとする映画を見たのは初めてです。薬草が世界をコントロールするものではなく、世界を見るものとして使われています。アマゾンを舞台にする作品はドキュメンタリーが多い中、チロ・ゲーラ監督は森やジャングルを幻覚を通じて捉え、原住民の今を見せたのがおもしろいと思いました。

ヴェルナー・ヘルツォークの『アギーレ/神の怒り』『フィツカラルド』などを彷彿とさせますが、今までアマゾンを舞台にした映画は白人を主人公にしていました。今作は原住民の目を通してジャングルを見つめる映画になっています。

ラテンアメリカでは、コロンブスがアメリカ大陸を発見したとされる「発見の日」である10月12日、各地で先住民のデモが起こります。現在は、聖書を渡して土地と豊かな資源をもらおうとした白人たちに、原住民の人が苦しんだことを理解しようという潮流があるようです。でも異文化との出会いが殺人や強奪であったと同時に、500年以上かけて豊かな、ミックスされた文化が生まれるきっかけにもなったのではないでしょうか。多くのヨーロッパ人にとって思い出すべきではないと考えている歴史を、2人のヨーロッパ人探検家を通じて知ることができる作品です。


リポート 山本純江