11月6日、京都文化博物館において、ヒストリカ・フォーカス プログラム『艶姿初春 照姫七変化』が上映されました。
本作の見どころは、何といっても主演・沢口靖子の華麗な七変化です。姫君、若武者、町娘、芸者などに扮するかわいらしい照姫をスクリーンで堪能するという、貴重な機会に恵まれました。

上映後は、『殿さま風来坊 隠れ旅』に引き続き、映画監督・CMディレクターの犬童一心さん、プロデューサーの小嶋雄嗣さんによるトークショーを開催。
また、引き続き東映の髙橋剣さんを交え、ヒストリカ・フォーカスを振り返っての総括が行われました。

■沢口靖子さんがとにかくかわいい!

小嶋さん:1991年1月、20年以上前の作品ですね。自分で言うものなんですが、今日改めて観て面白いなと思いました。沢口さん、きれいですねぇ。

犬童さん:本当に。すごくかわいいですよね。この作品は「沢口さんで時代劇を撮ろう」というところから企画がスタートしたんですか?

小嶋さん:今日鑑賞した作品は、正月の2時間枠でスペシャルとして放送されたものです。これ以前に同作のレギュラー番組を撮っています。おっしゃる通り「沢口さんを主役に」からスタートした企画です。
 大川橋蔵さんの『銭形平次』第888話が終了して、時代劇がなかなかうまくいかない時期がありました。それで、一度フジテレビさんでの時代劇枠が途切れてしまったんです。1990年になって「またフジテレビで時代劇を」ということになりました。最初に放送されたのが、大地真央さん主演の『女ねずみ小僧』です。その後が、たしか『鬼平犯科帳』だったかな。時代劇が軌道に乗り出したので、「じゃあ今度は沢口靖子さんでやろうよ」という話が持ち上がったんです。

犬童さん:小川真由美さん主演の『女ねずみ小僧』を大地真央さんで撮り直して当たったってことですか? 「女性が主人公の時代劇いいね」という流れになったのでしょうか。

小嶋さん:そうですね。それと、沢口さんはNHK連続テレビ小説『澪つくし』でヒロインを演じられた後で、幅広い世代から人気がありましたので。そんな沢口さんを時代劇に起用しようと。『澪つくし』も半分時代物のような感じでしたけれど、それでもフジテレビさんは大胆な決断をしたなと思いました。我々には「沢口に恥をかかすなよ」というプレッシャーがありましたけれど(笑)。

■コスプレ時代劇

犬童さん:沢口さんは東宝のご出身でしたっけ?

小嶋さん:「東宝シンデレラ」で芸能界入りされていますね。そこはあまり障害ではなかったです。

犬童さん:時代劇でお姫様ものって、よくあるものなんですか。美空ひばりさんが出られていた作品なんか印象に残っていますけれど。

小嶋さん:ありますね。『琴姫七変化』なんかもそうですね。『照姫七変化』とタイトルが似ていますが、内容はまったく違います。

犬童さん:『照姫七変化』は原作がないんですか?

小嶋さん:ありません。企画では、沢口さん主演で失敗できないというプレッシャーはありましたが、だからといってこれまでと同じことをしても面白くないよね、と。フジテレビさん自体も好調だったので、あまりしんみりした暗いものをやっても合わないなとも考えました。
 企画段階では、小川英さんにもアイディアをいただきました。また、パイロット版の監督は舛田利雄さんだったのですが、彼ともいろいろ話し合いました。ある時「沢口さんの衣装をとっかえひっかえするのはどうですかね」なんて話したら、舛田さんが「それええなあ!」とノッてくださいまして(笑)。そこで路線は決まりました。プロデューサーの中でも反対が多く、「お前はばかか!」なんてこっぴどく叱られたのですが、舛田さんが「いやいや、これしかないぞ!」と押し切ってくださったので実現することができたんです。

犬童さん:1話の中であれだけ衣装替えするのって、もうコスプレですよね。

小嶋さん:コスプレですね。「ここまでやんなくてもいいだろ」というくらい、衣装チェンジしていますよ。完全に止まんなくなっています(笑)。相手に見破られてもいいから着替えるっていうね(笑)。普通だったら、変化すると相手はその正体に気づかない設定にするじゃないですか。でも、照姫は変装していてもバレるんですよ。バレてもそのまま物語が進行するんです(笑)。

犬童さん:もはや、コスプレをしたい照姫の話になっていますよね(笑)。

小嶋さん:そうなりますよね(笑)。そういうつもりでスタートしたんじゃないんですけど(笑)。

犬童さん:明るくて、ばかばかしくって、ナンセンスで、だから面白い。そういう味わいのある作品に仕上がっていますよね。

小嶋さん:舛田さんと、あと江崎実生さんも日活出身の監督です。そういった方々が入ることによって、日活と明るく楽しい東映がコラボレーションした世界が広がっている作品になったと思います。

■主演・沢口靖子さんの魅力

小嶋さん:主演の沢口さんの浮世離れした美しさが活きているという意味でも、この路線はよかったんじゃないかなと思います。「つくりものです!」という雰囲気を前面に押し出したので成り立ったかなと。
 沢口さんにも、つくりもの感を出すという路線は認識いただいていたと思います。「何でこんな格好をするんですか?」とは一度も言われませんでしたから。

犬童さん:沢口さんが楽しんで演じられているなというのは、伝わってきますよね。沢口さんに限らず、役者さんたち皆が楽しそうです。スタッフの方々も楽しかったでしょうね。あの、絶対に助かるだろうっていう安心感がいいですよね。主人公が襲われて、他の作品なら誰かが「助けなきゃ!」と慌てるカットを挟むと思うんですが、その前段がなくていきなり助けていたりしますよね(笑)。照姫たちに迫って来る仕掛けも、ぜんぜん怖くない。サスペンス要素ゼロです。あの悪役の人たちも、すごくいい人たちでした。

小嶋さん:そう、すごくいい人たちです(笑)。

犬童さん:殺す気がまったくないですよね。ここで殺しておけばいいのにってところで、木につるすだけだったり(笑)。すばらしい悪役ですよ。

小嶋さん:お正月らしい悪役です(笑)。「お正月だから、皆お屠蘇飲んで楽に見ようぜ~」という悪役なんですよね(笑)。

犬童さん:藤岡重慶さんや丹波哲郎さん、金子信雄さんなどの重鎮の方々もご出演されていて、そこもすごいなと思いました。

小嶋さん:重鎮の方々が、あの話を快く演じてくださったのですからね。

犬童さん:金子さんのあの濃いメイク(笑)。あれはわざとなんですか?

小嶋さん:あれは完全に悪ノリです(笑)。

犬童さん:「俺は丹波より目立つぞ」っていう感じなんですかね(笑)。あのメイクで真面目な演技をされている。バランスが絶妙だと思います。すごく楽しいですよね。

小嶋さん:ギャグとして演じているわけではないんですよね。真剣に笑ってもらおうとしているんですから。沢口さんも真面目に演じられていて、そこがまたいいんですよ。彼女は昔から芝居に向き合う姿勢が素晴らしいです。だからこそ楽しい作品になったんです。沢口さんがチャラチャラ演じていたら、ばかばかしくて見ていられない仕上がりになったでしょうから。

犬童さん:沢口さんは、今ではなかなかお目にかかれないタイプの、「我々の手には届きおうにない」美女ですよね。照姫もそんな彼女だから成立した作品と言えます。衣装も派手で、沢口さんに似合うものを選んでいるなと思います。センスがすばらしいです。照姫は、他にどんなコスプレをしたんですか?

小嶋さん:板前とか。

犬童さん:板前いいなあ。

小嶋さん:一心太助とか。

犬童さん:いいなあ、かわいいだろうなあ。

小嶋さん:岡っ引き姿にもなっていただきました。岡っ引きのふりして事件の現場に行くんですが、相手にされないっていうね(笑)。「なんだ、お嬢ちゃん」なんて言われてしまうんです(笑)。

犬童さん:そのバレバレな感じが魅力ですよね(笑)。

小嶋さん:照姫本人だけがバレないと思っているんです(笑)。

■ヒストリカ・フォーカス14作品を振り返って

髙橋さん:この『艶姿初春 照姫七変化』をもって、ヒストリカ・フォーカス全14作品の上映が終了しました。史上初、テレビ時代劇を振り返るという企画でした。犬童さんには14作品すべてご覧いただいたわけですが、改めて振り返ってみていかがですか?

犬童さん:この4日間はぐっすり眠れませんでした(笑)。普段はどんなに忙しくても眠るとスッキリするんですけどね。眠っている間も頭の中が混雑していたと言いますか。夢の中で、いろんな映像が浮かんだり、誰かが何かを言っていたりしました。内容は覚えていないんですけど。それだけバラエティーに富んだ時代劇たちでした。『森の石松』や『阿部一族』、赤影にこの照姫でしょう。脳が疲れてしまったんでしょうね。今晩も、夢に長髪の金子信雄が出て来ますよ、きっと(笑)。
 楽しませる要素があまりにも多いと言いますか、幅広いですよね。時代劇でいろんなことができるのだとわかりました。すごく楽しかったです。

髙橋さん:今回プログラムを組む際に、改めて時代劇史を振り返ったのですが、時代劇でひとくくりするにはあまりにも多種多様で、カラフルだなと思いました。様々なジャンルを時代物で観ている感じですよね。

犬童さん:でも、どの作品も時代劇だからできることをしていますよね。たくさんの人が、時代劇の可能性を探ってこられたんだなと思いました。「これをやりたいからやったんだ」という思いも伝わってきました。深作さんの『阿部一族』もそうですよね。舛田さんの照姫もそうでしょう。そういうのを感じながら鑑賞できたのが、面白かったです。
 私は品川隆二さんが演じられた焼津の半次というキャラクターが大好きなんです。ああいう面白い半次のキャラってどこから生まれたのかなと思っていたのですが、今回品川さんご本人が「半次の前に、森の石松をやっていたんだ」っておっしゃったんですよ。なるほどと思いました。石松を演じて、その経験があったからあの焼津の半次になったんだなと納得しました。そういうのがわかったのがよかったですね。

髙橋さん:今回選んだ14作品は、なるべくジャンルがかぶらないようにと考えたのはもちろん、今は視聴できないテイストのものをというところも意識しました。ですが、意外とこういうテイストの作品たちのほうが、今のニーズに合っていそうな気がするんです。小嶋さん、いかがですか? この14作品の中で、どれだったら今ヒットしそうですか?

小嶋さん:何でも当たると思いますよ。犬童監督がおっしゃったように、時代劇のジャンルって幅広いですから、面白ければ受け入れられると思います。あとは作品がどれだけ周知されるかですよね。面白い作品なら、納得される方は必ずいらっしゃいます。きちんと作り続ける、作りたいものを作り続けることが大事じゃないでしょうか。

犬童さん:作りたいものを作ってうまくいくのが理想ですよね。ヒストリカ・フォーカスの14作品には、「作りたいものを作った」感じが出ていますよね。『森の石松』も中村勘三郎さんが石松を演じたいと思われたから、ああいう仕上がりになったんだなと思えました。俳優と演じるキャラクターがマッチした時、ものすごい力がわき起こるんだなということが、今回わかりました。