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12月4日(水)MOVIX京都でのデジタル復元された『恐喝』サイレント版の日本初上映のあと、京都文化博物館にてヒストリカ・トーク「ヒッチコック サイレントからトーキーへ 演出と音を巡っての考察」が始まりました。 司会に大野裕之さん、そして滝田洋二郎監督、原田眞人監督、イギリスから映画史家のデイヴィッド・ロビンソンさんという豪華ゲストを迎えトークショーは始まりました。

トークショーの前に、控え室でヒッチコックについて1時間程度語り合っていたというゲストの方々。
紹介が終わったあとすぐにヒッチコックについてのトークになりました。
以下敬称を略させて頂きトーク内容をご紹介します。

(大野)『恐喝』のサイレント版を見てどうでしたか?

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(原田)トーキー版よりサイレント版のほうが優れていると感じた。
「恐喝」では出てこないが、ヒッチコック作品で重要であるのが“母の寝室”である。ヒッチコックが5歳から30歳まで住んでいた家の構造と思われる家に『恐喝』のヒロインは住んでいる。ヒッチコックは幼少期、学校から帰ってくると玄関のそばにある階段を上り、母親に今日あった出来事を語った。ここからヒッチコックの全作品は出来ている。だから“母の寝室”はヒッチコック作品で欠かせないポイントとなるのである。

(滝田)トーキー版も見ました。この時からヒッチコックのスタイルが確立されていることが分かった。
無駄なカットがなく後のヒッチコックの作品につながっている。
30年代に入る前に無声映画で力をつけているなとつくづくと思った。
サイレントのほうが映画に能動的になれる。音声つきの映画は(観客が)受動的になってしまう。なんでも調べたらその情報が出る現在において、受動的になり思考停止になってしまうのでは・・・そう考えると、サイレント映画では能動的に全シーンに注目できる。

(デイヴィッド)60年も前から『恐喝』にはサイレント版とトーキー版があることは知っていた。しかし、サイレント版をみたのは本日が初めて。京都で初めて上映されたことは素晴らしい。『恐喝』は映画史において重要な作品である。イギリスでは初めてのトーキー映画である。当時、まだトーキー映画を上映する劇場が少なかったためサイレント版も制作した。今日はじめて見てサイレント版のほうが素晴らしかった。音がないことによって構造的な良さが分かった。しかし、トーキー版では音を上手に使って主人公の心情を表している。
「誰が素晴らしい監督か?」という質問に対して名前が挙がってくるのはサイレント映画で修行を積んだ監督ばかり。
サスペンスは恐怖ではない。サスペンスはもっと一般的な単語である。新聞の記事にもロマンチックなシーンにもサスペンスはある。つまり言い換えると「次に何が起こるのだろう?」ということを表している。

(大野)「サイレントからトーキーへ」がテーマになりますが、映画作家としてサイレント版とトーキー版の違いをどう考えますか?

(原田)サイレントからトーキーへ、そしてモノクロからカラーへと映画は変わっていった。しかしヒッチコックはそのような中でも進化する。ヒッチコックはモノクロでは光の使い方がすごい。カラーでは色の使い方が上手い。『恐喝』ではヒロインが自首を決めたときの影の動きかたが凄かった。

(デイヴィッド)サイレント映画は絶対にサイレント映画でない。必ず音楽がついている。その音楽が重要である。

(原田)今日の『恐喝』のサイレント版の伴奏(松村牧亜さん演奏)が最高だった。
センシティブな演奏でサスペンスのシーンも変に盛り立てない。トーンの選び方が上手い。素晴らしかった。

(大野)映画において音楽の役割は?

(滝田)音楽に頼り過ぎてはいけない。

(原田)ハリウッド映画は音楽が多すぎる。オーバーアクトが起きてしまう。悲しいシーンで悲しい音楽をかけてはダメ。対義的な音楽をかける。ハリウッド映画では2時間の映画があるとしたら2時間音楽がかかっている。自分の作品で測ってみたところ2時間の映画で40分間音楽のかかっているシーンがあった。最近は音楽を減らすようになっているが、心に響く音楽は聞かせるようにする。

そして質問タイムでは客席から「オススメのサイレント映画は?」という質問がありました。
この質問に対し、原田監督、滝田監督はチャップリンのコメディをお勧めして下さいました。そして、デイヴィッドさんは「30年前であったらサイレント映画はみることが出来なかった。今では簡単に手に入れることが出来る。日本人だったら小津安二郎監督の作品を見てみたらどうだ」と日本人監督の映画を勧めて下さいました。そこに原田監督から一言。「モノクロでもサイレントでもクオリティーの高いものを見るようにする。そうでないと意味がない。サイレント映画の名作と言われるものは今でもほとんど名作で生き残っている。そのような作品をみてほしい。」。

そして、トークショーの最後にゲストの方々から一言頂きました。

(滝田)フィルムがなくなって映画を作るなかで腹立たしさや苛立ちを感じることもありますが、デジタルのおかげで昔の映画が見られる。映画は自分と対話して見るというのが映画の原点であると思う。まずは映画館で映画を見る習慣を増やしてほしい。

(原田)クラシック映画を若い世代に特に見てほしい。私の年代の方々はもう一度見てほしい。よかった作品の監督の作品を再発見してほしい。次の世代にどう引き継いでいくのか。古典映画をいい状態でみてほしい。

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(デイヴィッド)若い世代にみてほしい。年齢は壁にならない。このフェスティバルは素晴らしい。今までみた作品も全て素晴らしかった。本当にこのフェスティバルのことが好きだ。しかし嫌いなことが1つある。それは空席である。空席は見逃してしまった人がいることを表す。今日来た方々は今日のことを友達に話し、ぜひ誘ってフェスティバルに来てほしい。

時にはジョークを交えながら和やかに進んだヒストリカ・トーク。内容はヒッチコック監督作品の話から現代の映画についてなど多岐に渡るものでした。ゲストの方々が退場したあとも会場はトークの熱気に包まれていました。それほど濃いお話を聞くことが出来たということです。日頃は現代映画しか見ない私ですが、これを機にサイレント映画も見てみようと思います。皆さんもぜひ、サイレント映画やヒッチコック監督作品ご覧になってみませんか。

ボランティアスタッフ 小野京香