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11月5日(土)、京都文化博物館において、第8回京都ヒストリカ国際映画祭アジア・シネラマで『駆込み女と駆出し男』が上映されました。井上ひさしの小説『東慶寺花だより』を原案として、原田眞人監督が初めて時代劇に挑戦した2015年の作品で、アジア・フィルム・アワードでも最優秀美術賞ノミネートを受けています。上映後、原田眞人監督と美術デザイナーの原田哲男氏を迎え、松竹の尾崎誠氏による進行でトークイベントが実施されました。2017年9月公開予定の『関ヶ原』の撮影を終えたばかりというお2人の、時代劇に対する熱いトークをお伝えしましょう。

■江戸文化をカラーで描いて世界に発信。

尾崎氏:私もスタッフとしてこの作品に参加していましたが、本作は2013年秋口から撮影の準備に入り、2014年2月下旬から4月中旬までかけて撮っています。撮影に入る前日、全スタッフが集まる打ち合わせの時、原田監督は「黒澤明や溝口健二は江戸文化を白黒で撮ったが、この作品ではカラーで江戸文化を描いて世界に発信するんだ」と意気込みを語っておられました。

監督:この作品を撮るにあたって、黒澤明や溝口健二の映画を参考にしています。黒澤明の江戸モノと言えば山本周五郎原作の『赤ひげ』ロシア文学のドストエフスキー原作の『どん底』があります。溝口健二が京都で撮った『祇園囃子』は1950年代の最高傑作だと思っています。溝口健二の『西鶴一代女』は当時の人が聞いた音曲を使用していて、『駆込み女と駆出し男』でも最初に大泉洋さん演じる信次郎が口ずさむ甚句やじょごが歌うわらべうたなど、当時の音曲を意識しています。お吟が高輪を出るシーンも、溝口健二作品を意識していて、今の時代は色彩をつけてやっていこうと。

尾崎氏:時代劇としての、美術のこだわりはいかがですか。

監督:原田哲男さんの師匠である西岡善信さん、そのまた師匠の水谷浩さんから受け継がれた大映時代劇の美術が生かされています。映画の舞台となる東慶寺門前の御用宿・柏屋のセット、これ以上の美術はありませんね。苦労したのは風呂場のシーン。あの時代の風呂は資料もありませんが、滝沢馬琴と大泉洋さん演じる信次郎が顔を合わせないで風呂で話すシーンを撮るために、L字型の大きな浴槽を作らせてもらった。なぜ何故お風呂にこだわったかというと、式亭三馬の『浮世風呂』を意識していたからなんですね。

原田哲男氏:あの風呂は小さく見えるけれど、お湯が14トンも入っています。セット的にも構造的にももたないので、最初の図面よりやや小さくしました。

尾崎氏:映画の美術の仕事はどういうものですか?

原田哲男氏:原田組の場合ですと、監督が脚本を描くのでイメージも監督の頭にある。脚本を読んで、セットかロケか確認して、ロケハンをして、監督主導で進みます。セットの図面を描き、形にして撮影します。

監督:柏屋のセットは、大分広げましたね。小津安二郎監督作品から縦の格子の作り方を学んで、うまくアレンジして広くしました。柏屋の入口から外が見えるのは、撮影所のドアを開けっ放しにして、オープンステージが見えるようにしたから。中から外は眺められるけど、外からは撮れません。透け透けの暖簾が入口にかかっていて、これが幽冥界というか、現実と霊界を分けるコンセプト。暖簾に樹木希林さんが“御用宿 柏屋”と書いてくれました。樹木希林さんの思い入れがあってノッてくれた。美術の環境の良さが、いい演技を引き出すモチベーションになります。

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■ロケ地と恋に落ちる。とことんロケ地を愛して撮影。

監督:時代劇のルネサンスを目指して、日本でも海外でも、どこに持って行っても通用するものを撮りたいですね。一番重要なのは、今の時代しか見られない映像。だからロケハンにも力を入れたい。今回、江戸から東慶寺のある鎌倉までの距離と道中が問題でした。冒頭の、じょごとお吟が出会う19世紀の日本の街道を撮るためにはエネルギーを注ぎましたね。今は時代劇を撮るようなロケ地がなかなかないのですが、僕はゴルフが好きで、ゴルフ場って自然が残っているでしょう。じょごがお地蔵さんを拝むシーンは、実は奈良のゴルフ場の17番ホールの間。発想を豊かにして、ゴルフ場も含めいいロケ地を探したいですね。

今作は撮影所をベースに、オープンセットも組んで、姫路の書寫山圓教寺、三井寺(園城寺)、百済寺、西教寺、楊谷寺など、さまざまなロケ地で撮影しています。ロケ地と恋に落ちる。とことんそこの場所を愛して撮影しています。

書寫山圓教寺は『ラストサムライ』に俳優として出演した時「見学においで」と言われて、書寫山圓教寺を初めて見ました。それ以来、いつか圓教寺で時代劇を撮りたいと思っていたんです。圓教寺は非常に協力的で、戦のシーンなども快く撮影許可をいただけました。女が生きるということを証明するのは、圓教寺ありきということで。松竹からこの映画の話をいただいた時、圓教寺で撮るということと、主人公の信次郎を大泉洋でというお願いをして、それがクリアになったので引き受けました。

『わが母の記』以来、樹木希林さんには毎回どういう役で出てもらうかと考えているのですが、樹木希林さんが演じている三代目柏屋源兵衛は、原作では男なんです。原作のおとら婆さんという役をやってもらおうかと思ったのですが、2つの役を一緒にしました。男のキャラクターを女に変えるというのは、僕の師匠であるハワード・ホークスが『ヒズ・ガール・フライデー』でもやったことです。

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■キャスティングの妙は信頼できる役者から。

尾崎氏:ここで会場からご質問をいただきましょう。

Q:今回、映画を拝見するのは二度目なんですが、最初のやり取りが落語を聞いているようです。落語から影響は受けていますか?

監督:井上ひさしさんの原作が落語感覚で、『幕末太陽傳』も落語を意識していますよね。江戸っ子と落語は切っても切れない関係があります。僕自身が落語を聞く訳ではありませんが、それなりに勉強して、役者も乗って来てくれて、ああいうシーンになりました。1840年代の言語を完璧に再現することはできませんが、ある程度のフレーバーは入れたい。今回映画祭なので、英語字幕がついているから古語もストレートで意味がわかりやすいでしょ。いい英訳にはなっているけれど、字幕だと制限があって元のニュアンスは失われてしまいますが。江戸時代は口八丁手八丁で、「結句(けっく)」なんて言葉は「結局」よりいいなと思って使うことがあります。「ちょんぼし」なんかも使いますね。

尾崎氏:信次郎が三八親分を追い払う長芝居がいいですね。

監督:あのシーンは原作にあるんですが、大泉洋ちゃんの相手はできる人をと思って、最初から劇団★新感線の橋本じゅんさんに決めていました。スケジュールが1日しか取れなくて、1日前にフルリハーサルをやったんですが、柏屋のセットを見て、橋本じゅんさんが入れ込んでやってくれた。でも、日本でも海外でも上映すると、最後に三八親分の舎弟が「生まれ変わったら、あんたの弟子になる!」と言うシーンが一番ウケるんですよ。TEAM NACSの音尾琢真さんが演じているんですが。そこで『関ヶ原』では福島正則を憎々しくやってもらっています。わずかなシーンでも信頼できる役者を使うところが、いいキャスティングのポイントです。この作品は女性映画だから新鮮な役者を使っています。法秀尼を演じた陽月華は旅番組でのしゃべりが良かったんです。スペインで突然フラメンコを踊らされる場面があって、下手だけどいいんですよ。一生懸命で、立ち姿もいいし。

満島ひかりは天才ですからね。最初、じょご役でオファーしたら、脚本を読んで、じょごは守備範囲だけれど、演ったことがないお吟役がやりたいと。最初の2~3カ月は所作を覚えてもらうだけでも大変で、品川芸者なんか演れるのかと思ったのだけど。彼女はアスリートだから、本番に合わせてピークパフォーマンスを持って来る。お吟を生きていましたね。結果、戸田恵理香にじょごを演じてもらって、うまくいった。役者たちが演りたいものを演ることで、一番いいキャスティングが組める。わかりやすい人が来たらおもしろくないですね。去年の日本映画を見ていて、この2人に匹敵する演技は他になかったと思います。

■緩急をつけた編集で長さを感じさせないスピード感。

Q:場面の切り替えにスピード感がありますね。いくつかのシーンにおいて、もうちょっと長くして泣かせてくれてもいいと思ったのですが。

監督:おみつのシーンは、作品の中で一番センチメンタリズムがあって、もっと長くした方が良かったかもしれません。1秒足そうか、2秒足そうかと考えるのですが、自分たちが一番いい気持ちになっているものを、ズバッと切る。次のシーンが政府の焚書シーンで、この表現弾圧に反発してもらうために切りました。また、芝居が弱いと感じて切る場合もあります。スピード感というより緩急をつけるために切るのです。

尾崎氏:「監督が2時間23分に感じさせない映画にするから」と松竹の社長に言われたのですよね。アッと言う間の143分でした。では、最後にお2人に一言ずつお願いします。

監督:これからも時代劇をやっていきたいです。来年9月公開予定の『関ヶ原』をお楽しみに。また、2時間15分以内って言われていますけど。

原田哲男氏:おさまらないです。

監督:以前、『ラストサムライ』で合戦シーンの撮影を見た時、戦ってる約300人の役者をロープで仕切り、カメラ7~8台を固定させて、時計みたいにそれをぐるっと回転させて撮っていました。効率的だけれど、360度背景が同じで風景を生かしてないと思ったんですね。『関ヶ原』で石田三成の笹尾山での陣の美術は素晴らしいですよ。

原田哲男氏:大工さんたちが頑張ってくれたおかげです。

監督:とにかく楽しみにしていてください。ロケセットにリアリティがあって、役者も素晴らしいし。『駆込み女と駆出し男』は合戦ものじゃないし、女性映画だし、話を受ける前は悩んだのですが、今考えると時代劇にいい形で入って行けました。司馬遼太郎先生による『関ヶ原』の原作は女性キャラクターが弱いのですが、どうふくらませるかはこの経験を生かしています。女武者もたくさん出て来ます。男性も女性も楽しめます。

尾崎氏:原田哲男さんは何か話はありませんか?

原田哲男氏:監督がこんなにしゃべってくれたら私が話す事はありません。(笑)

熱く語る原田眞人監督と、物静かな原田哲男氏。好対照ながら信頼に結ばれたお2人が作り出す時代劇ルネサンス。行き届いた美術や背景の美しさは、二度、三度観ることで新たな魅力を感じていただけることでしょう。次回作の『関ヶ原』をはじめ、これからのご活躍を期待したいと思います。

(ヒストリカボランティアリポーター:山本 純江)