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11月13日(日)、京都文化博物館において、第8回京都ヒストリカ国際映画祭アジア・シネラマで『隻眼の虎』が上映されました。“山の神”と畏れられる朝鮮最後の大虎と伝説のハンターとの熱き命の物語は、韓国の名優チェ・ミンシクと、迫力満点の大虎が主役。この虎、なんと100%CGで制作されていて、映画は第10回アジア・フィルム・アワードの視覚効果賞にノミネートされています。上映後、虎の生みの親であるVFXチームを率いるVFXスーパーバイザー、チョ・ヨンソク氏が登壇。彼は2000年代前半にVFXのキャリアをスタート。京都ヒストリカ国際映画祭でも上映されたカン・ドンウォン主演『チョン・ウチ 時空道士』やサスペンスアクション『ベルリンファイル』などの大作を手がけ、韓国映画界におけるVFX制作の最前線で活躍中。東映株式会社 京都撮影所 VFXディレクターの北昌規氏をインタビュアーに迎え、スクリーンに躍動する虎や狼たちの誕生秘話に迫ります。


■チェ・ミンシクとW主役級、100%CGの虎!

チョ氏 韓国からまいりましたチョ・ヨンソクです。

北氏 この作品はVFXにより、韓国で神聖な生き物である虎をはじめ狼、背景などもマットペイント、3DCG(3次元コンピューターグラフィックス)で描いています。日数も予算もかかるため、日本ではなかなかこれだけの規模のVFXはできません。

VFXとはVisual Effectsの略で、Effectsを英語で発音した時FXと似ていることからVFXと呼ばれるようになりました。
SFX(Special Effects)がビルのミニチュアを作ってそこに人の動きを重ねたり爆発させたり、撮影現場での効果であることに対し、VFXは実写に後から描き込む視覚効果になります。

チョ氏 今作は、人物以外VFXを使った作品と考えて間違いありません。主役のチェ・ミンシクさんと虎は、ほぼ同じくらいの分量で登場します。これだけたくさんのシーンがある中、VFXで素晴らしい作品を作ることができて光栄です。

北氏 この作品のオファーを受けた時のことを教えてください。

チョ氏 実は3社競合で、他の2社は虎のCGを作ったことがありました。でも経験のあるなしではなく、監督とコミュニケーションを取りながら作っていく過程が重要で、私どもの会社を選んでいただきました。

■VFXで『隻眼の虎』が生み出されるまで。

北氏 虎のCGをどうやって作っているか、制作風景を見ていただきましょう。どういうところから、虎を作り始めたのですか。
(ここからチョ氏が所属する4th Creative Partyによる「隻眼の虎」CG制作説明映像など資料を投影しながら説明)

The Tiger VFX Breakdown by 4th Creative Party from 4th Creative Party on Vimeo.


チョ氏 映画の虎はシベリアトラ(アムールトラ、チョウセントラ)で、韓国には数頭しかいません。まず、動物園の虎の研究から始めました。そしてパク・フンジョン監督と話し合いながら、監督が望む虎を実際に制作。YouTubeの動画なども研究し、虎の動作を作りあげました。シベリアトラはネコ科動物の中でも最大という一番大きな虎で、スケールを決定し、そのスケールに合わせて13歳という設定や、傷や泥をつけるなど、変化をつけていったのです。

(プレゼンテーションの時に作った絵コンテから)

チョ氏 これは虎とチェ・ミンシクの登場時間が同じ分量ということで、虎と彼の顔を半分ずつつないだ絵です。監督が気に入ってくれました。

(虎が山にたたずむポーズの絵コンテ)

チョ氏 智異(チリ)山にたたずんでいる虎をどう描くのか、監督が気にしていたのでまずお見せしました。映画の舞台となる智異山とは、山が大き過ぎて飽き飽きするような山、という意味です。

(他、監督の要望で隻眼の虎なので片目を光らせた絵、神格化された猛獣イメージをかきたてる絵など、イメージやバリエーションを決定するための資料を表示)

(虎のスケール感を示す資料)

チョ氏 これは虎のタイプの比較です。上からシベリアトラ、一般的な虎のオス、メスの虎、子虎の順に並んでいます。映画の虎は、一般的な虎より背が10cm高く、全長4mに設定しました。子虎は、監督はもっと大きく作るようオーダーしましたが、子虎を親が噛んでつかんで運ぶためには負担がかかるので、いくつかサイズを変化させて、確か一番小さいサイズが採用になったと思います。

(背景写真)

チョ氏 チェ・ミンシクが最後に登る山の写真です。セットではなく実際の山。そして雪山を撮影したものに視覚効果を使って吹雪を再現したものです。虎の動線を作るためにこういったものを作ります。

(動物園で撮った虎の写真)

チョ氏 これが作品のモチーフになった、一番近いイメージのシベリアトラ。この虎は3歳なので、映画の設定の13歳になるよう年老いて、牙の鋭い虎に仕上げています。

北氏 虎の写真は動物園に来るお客様と同じ目線なんですね。危険ですものね。

チョ氏 動物園で特別扱いしてもらった訳ではないので。(笑) それにお客様に公開していない場所は暗くて写真が撮りにくいですし。

■根気強くチェックと作業を繰り返すVFX。

(VFX合成用の撮影をしている写真。カラーチャート、虎柄のボール、グレーボールなどが写っている)

チョ氏 撮影の時に使っている道具です。グレーボールは撮影現場で光がどう当たっているか、ライティングを記録するためのもの。虎柄のボールは実際の虎の位置を示すもので、これを見ないとCGアーティストは虎を描くことができません。

(主人公の家の前で、チェ・ミンシクと虎が向き合う撮影風景)

北氏 この映画のカットは全体でいくらくらいになりましたか?

チョ氏 映画全体で2,500カットあり、その内CGが入るものが1,400カット。私たち社員170名で作業しました。その他、中国、インド、韓国国内で240から250名がこの映画に携わっています。

北氏 撮影中はVFXスーパーバイザーとして日々CGカットをチェックすることになると思うのですが、監督に見せる前にチェックする機能がありますか。

チョ氏 監督のOKより社内のクオリティーチェックに合格する方が難しいですね。

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■3DCGを仕上げるまでの過程と時間。

北氏 3DCGは、まず「モデリング」(3Dモデルを作る)の後に、「リギング」(キャラクターをアニメーションとして動かすための仕組みを作ること)をして、その後「レンダリング」(3Dモデルを2D画像化すること)して動画に組み込むのですが、虎の骨格や毛並みなど描き出しに時間がかかりますよね。

チョ氏 モデリングに始まる工程は11段階あり、虎1頭作るのに、7人で1年がかりです。

北氏 日本ではそれだけの期間での作業は難しいですね。

チョ氏 社内のVFX用資料はいつでも自分たちが使えるようにしています。そのあたり、日本とは違うと思いますね。1年をかけての作業ができるようになっています。

北氏 一番苦労したことは?

チョ氏 意外に、そんなに大変ではなかった気がします。虎を作るまでの1年は大変でしたが、虎と主人公のしっかりとしたイメージができたらすぐ走り出しました。

北氏 企画から完成までどのくらいかかりましたか?

チョ氏 虎は企画が立ち上がったのと一緒に作り始めたので、全体で1年と6カ月。後半の作業は1,400カットを4カ月で仕上げました。

北氏 日本だと多くて50人弱の人数でしか作業にかかれないので、なかなかできないことですね。

チョ氏 日本での視覚効果のプロセスには詳しくありませんが、日本の視覚効果について憧れていた時期があります。制作に関して独創的なところがありますから。それが監督の力なのか、現場のCGの力量なのかはわかりませんが。

北氏 日本も韓国も歴史ものの作品を作る時にVFXを使うことが多いと思いますが、そのノウハウは?

チョ氏 私たちの会社はどういうジャンルでも基本的なVFX用の設定はできていると思います。たとえば1945年代を表現する場合でも、事前にモデリングしてあるのでそれだけを取り込めばすぐ作ることができます。

北氏 素材を持っていると重宝しますよね。

チョ氏 作品を作る毎に素材となるセットが増えていきます。ありがたいことです。

■VFXスーパーバイザーとしての仕事。

北氏 今作はロケで撮ったシーンが多いですが、現場でVFXスーパーバイザーとして注意したことは?

チョ氏 今回一番心がけたのは安全ですね。山など急な斜面も多かったですし、特に俳優とスタッフには注意を払いました。また現場で私が虎と共鳴し、交信できるようにしなければならないのに、忙しくなると私の感情がなくなってしまうので、そこも気をつけました。

北氏 虎が人をくわえてバーンと投げ飛ばす動作はどうやって撮ったんですか?

チョ氏 武術のアクションシーンは、筋肉が痛くならないようにマットを敷いて…北さんは全部ご存知なのにどうして私に聞くんですか?(笑)

北氏 それは観客の皆さんにわかっていただくために…(笑)。目線の誘導って大事ですよね。俳優たちは虎の毛玉を見ていたんですか。

チョ氏 最後のクレジットは韓国語なのでお気づきにならなかったかもしれませんが、(虎)と書かれた人物の名前があったと思います。その人は俳優で、アクションもこなせるので、虎のスタンドをやってくれました。虎のように速くは走れませんでしたがね。

北氏 『スター・ウォーズ』で、ヨーダの撮影は当初パペットを使っていました。シリーズを重ねて他のキャラクターが次第にCG制作になっても、どうしても不自然になるからとヨーダだけはパペットで撮影していました。CGソフトの性能が上がって来たのでフルCGになりましたが。CG制作ソフトはMAYAを使っているんですか?

チョ氏 MAYAに、いろんなソフトを使って足らない部分の補強はします。それは実際に作業する人の問題なので、私自身がその選択にタッチしている訳ではありません。

北氏 韓国のVFX業界は今、どうなっていますか? 日本ではVFX業界に入って来る学生が少ないんです。CGを勉強した学生が一番目指すのはゲーム業界で、次いでパチンコの映像、アニメーション。VFX業界は全体の1割に過ぎません。

チョ氏 韓国も全く同じです。VFXをやりたくてこの業界に入って来る人は年々減っています。とっても大変なので嫌がります。(笑)

(資料写真の解説に戻り、映画の北米版ポスター、韓国版ポスターを紹介)

チョ氏 このポスターも我が社で制作しました。作品が完成して心残りなのは、もっと物々しい雰囲気が出れば良かったということです。暗い場所のシーンなど、動物の光る目しか見えないように意図していたのに、実際の映画では明るく見えたのが残念。

北氏 最終的に色調補正、カラーグレーディングなどで決められてしまいますからね。

■観客からチョ・ヨンソク氏へのQ&A。

Q 非常に迫力のある虎でした。親子の情があるようなシーンをVFXで表現するにはどのような工夫があり、監督からどんな指示が出たのでしょうか。

チョ氏 一番聞かれると思った質問です。親子の情を描くシーンは、所帯持ちの方にさせると文句が出ません。私自身、所帯持ちではありませんが。(笑) 親子の切実な愛情を描くことは、しっかりとしたストーリーができていましたから、難しくありませんでした。父と子の愛情をつかみ取ってくれる皆様が優秀なのです。

Q 視覚効果で、虎のような生き物を作るのと、『ベルリンファイル』のように建物など無機物を作るのでは、どういう違いがありますか?

チョ氏 私にだけわかる差があります。キャラクターに対する思いがどうかによって、自分の思いを込めるCGは違ってきます。私自身が虎になったような気分でCG加工を行い、監督と協議し、俳優たちと相談します。建物など無機的なものは感情がなく、リアルに表現することが要求されるので、作業にも違いが生じてくる。石を投げる、紙飛行機を飛ばすなど、目で見たそのものを表現するための動きを繰り返していきます。

北氏 そろそろお時間です。今日はありがとうございました。(観客に向けて)日本のVFX業界は人を募集しています。

チョ氏 私も応募しようかな。韓国に帰らないで。(笑)

(ヒストリカボランティアリポーター:山本 純江)