2013.12.03
ヒストリカ・トーク「ヒッチコックの世界」@京都文化博物館
12月3日16時、松竹撮影所の山本一郎さんの司会により、
井筒和幸監督のヒストリカ・トーク「ヒッチコックの世界」が始まりました。
1時間半に渡り、ヒッチコックの事、映画撮影現場のことなど
とても楽しく、勉強になるお話を聞かせていただきました。
以下、その中から一部抜粋して、概要をお伝えさせて頂きます。

井筒監督は文化博物館のトークイベント会場に来られる前に
MOVIX京都で、アルフレッド・ヒッチコック監督の『リング』を鑑賞して来られたそうです。
この映画は実在したイタリア人ボクサーの話で、
マーティン・スコセッシ監督などもニューヨーク大学の学生の頃、
ヒッチコックの作品を観まくったのでは、と思われるとのこと。
『レイジング・ブル』など、似た雰囲気の作品が作られているので。
他にもブライアン・デパルマ監督など、ヒッチコックのカメラワーク等に
影響を受けた監督は多いのではないかということです。
井筒監督ご自身は、1952年生まれということで
50年代に活躍したヒッチコックの映画はリアルタイムではない訳ですが、
古典を観る感覚で、名画座で鑑賞されたりしていたそうです。
『ハリーの災難』『知りすぎていた男』などを、演出部でサスペンスを学びに
日比谷のみゆき座などに観に行かれたこともあったということでした。
ちなみにサスペンスとミステリーは演出方法として対極にあるもので、
サスペンスは序盤で既に犯人が誰かが分かった上で、その犯人の意図とずれていき、
思いもよらぬ方向にストーリーが向かっていくことで主人公(犯人)が翻弄されていくというもの。
それに対してミステリーは犯人が分からない状態でストーリーが進んでいき、
観客はその謎解きを楽しんでいくという演出方法なのだそうです。
そして、このサスペンスという演出方法を得意としたのが、ヒッチコックであり、
観るたびに新しい発見があると井筒監督はお話されていました。

(山本) 日本の監督でそういう人はいますか?
(井筒) うーん。『仁義なき戦い』くらいかなあ、何度も観たくなるのは(笑)
まあ、その人に合うか合わないかでしょう。
(山本) ヒッチコックは特殊な感じですか?
(井筒) そうですね。 反面教師でもあるけど…。 時代の折り目に触れているから。
1番判りやすくいえば、おしなべて人間の心の深層を描いてるわけです。
だから出てくるのはヘンタイばっかり(笑)
『サイコ』なんてことさらでしょう。
『サイコ』は、エド・ゲインという実在したアメリカの殺人鬼を題材にした作品で、
人の墓を掘り出して皮をはいで遊んでた人の話とのこと…恐ろしいです。
2012年に公開された映画『ヒッチコック』は、この『サイコ』の制作舞台裏を描いた作品です。
(井筒) アンソニー・ホプキンスが随分太って頑張ってましたが、
ロバート・デ・ニーロほどは無理やったみたい。
ホプキンスアプローチは成り立たなかったようだね(笑)
でも、ヒッチコックのヘンタイさをよく演じていた。
本人が生きてたら怒るかもね。
怒るということは、当たってるんだけどね(笑)
人間の深層心理を描いたヒッチコック。
キーワードは「疑惑」「憎悪」「裏切り」「不信」などの負の言葉。
「愛情」や「絆」「優しさ」なんてどうでもいい。
役者に普通に演技させて、普通に会話しているようだけど、どこかいやらしい。
不信感が沸いてくるような掛け合いが、ワンカットごとに出てくるような。
ヒッチコックという人物は、なかなか複雑で粘着質な人物だったようです…。
ちなみに、井筒監督にとってヒッチコックは反面教師であったということについてですが、
ヒッチコックの時代は接写の技術などがまだなかったせいもあり、小道具なども、
実際よりもかなり大きな寸法のものを作ったり、ヒッチコックはロケが好きではなかったということもあり、
町の雑踏のシーンや車を運転するシーンなど、ヒッチコックの映画には必ずと言っていいほどスクリーンプロセスが使われているそうです。
それに対して、井筒監督はなるべく嘘のない、リアルにこだわった撮影方法を心がけてこられたという意味で、反面教師とおっしゃっていたようです。
けれども、ヒッチコックが取り入れていたスクリーンプロセスは、現代でいうところの、CG技術そのものであり、
グリーンバックやブルーバックの前で役者が演技をし、グラフィックと合成するわけですから、
そういう意味では、ヒッチコックは先取りだったのかもしれません。
そして、ヒッチコックという人は、ストーリーボード(所謂絵コンテ)に
物凄く忠実に撮影を行ったらしいです。
1シーン・1カットごとにそれは細かく、時に役者をノイローゼにさせる程こだわったとか。
井筒監督はおっしゃっていましたが、
役者の芝居の力、シナリオなどに助けられ無理から何とかなってる場合もあるけれど、
カットごとに適正なアングルというのは、本来1箇所しかないとのこと。
色々なスタッフが調整しながら、相談して決めていくけれど、
ピシっと合った時は、これは観客に届く!と思われるそうです。
ヒッチコックはそういうことにすごくこだわっていたのでは・・・とのお話でした。
ヒッチコック=ヘンタイ?説に関する、面白いお話もお聞きしたのですが、
すこーし過激なのと、字数の関係もありこの辺りで終わらせて頂きます(笑)
最後に、トークイベントの観客の方からの質問に一つ回答されていたので、紹介します。
Q 監督がお考えになる、いい芝居・好きな芝居・使いたい芝居とは?
A いい芝居でも悪い芝居でも、お芝居は基本は嘘なので…。
芝居してるのが見えてこないこと、なんじゃないですか。
気持ちが入ってようがいまいが、そう見えたらいい。芝居っていうのは。
「3つ数えて左見て」って言われてその通りにしてOK取った女優もいたんですよ。
ラッシュで「あの間・・・いい芝居してたよね~」って言われてましたけど(笑)
芝居っていうのはクリエイティブな嘘なのでね。
(山本)もうすぐ実名が出そうなので、この辺で(笑)
筆者も笑ってしまってメモが取れない時があったくらい、楽しいトークでした。
あっという間の1時間半、貴重なお話をありがとうございました。
ボランティアスタッフ さたかおる